ザクザクと四人の足音が森に響いている。
あの後喜癒は教会にいた教祖に任を預け、何本かのナイフを持って灯摩たちについて来ている。
とっくにバーサーカー出没地帯に入っているため、四人…特に灯摩とウィンリアはほとんど言葉を発していなかった。
喜癒も気配を感じているのか、灯摩の傍らにぴったりとくっついて辺りをきょろきょろ見ている。
そんな中、ウィンリアがふと歩を止めた。
「…どうした?ウィンリア。」
気付いた灯摩が小声で問う。
「…皆、武器を構えて…。こっちに向かってくる音が聞こえる。」
目を閉じて、耳を澄ましている。
それを聞き、ユーリンと喜癒も耳を澄ましてみるが何の音も聞こえない。
聞こえるといえば、木々がざわめく音だけである。
「ウィンリアはエルフ族だからな。俺たちより聴覚がいいんだ。それより、早い所構えておいた方がいい。」
不思議そうにしている二人に灯摩が説明した。
確かにこの場にいる四人の中でエルフ族なのはウィンリアだけであった。
灯摩は鞘から剣を抜き、構える。
ウィンリアは腰から矢を抜き、弓に当てる。
そしてユーリンは三つ編みにしていた髪をほどき、着ていた制服を脱いだ。
下には昨日ウィンリアを助けたときに着ていたレオタードの様な服をまとっていた。
最後に彼女はメガネをはずす。
「ユーリンの戦闘スタイルはそれなのか?」
その姿は始めてみる為、灯摩が訊く。
ユーリンは頷いた。
「えぇ。だって…。」
「!!!!来た!!!」
ユーリンが答えようとした瞬間、斜め後ろの茂みから黒い影が飛び出してきた。
「避けろ!皆!!」
喜癒を庇いながら灯摩が叫ぶ。
ユーリンとウィンリアはそれぞれ別方向に飛び、難なくかわした。
黒い影の正体は、小振りな四足歩行のバーサーカーであった。
「失せろ!」
相手の姿を捕らえて間もなく灯摩は剣を振るう。
下級のバーサーカーであるそれはあっという間に真っ二つにされ、消滅した。
「まだ来る!油断しないで!」
ウィンリアが叫ぶ。
今度は三箇所からバーサーカーが飛び出してきた。
「しつこい!」
灯摩はすかさず刃を向け、切り落とした。
その後ろでウィンリアは向かってきた者に矢を放つ。
ユーリンももう一体を倒したようで、辺りを窺っている。
周囲からはバーサーカー達の唸る声と殺気が発せられている。
「…完全に囲まれてるな。」
「そうね。かなり多いみたい。塵も積もれば山となるって感じかしら。」
答えたのはウィンリアではなくユーリンである。
先ほどと違う口調に一瞬灯摩は耳を疑ったが、今はそれを気にしている場合では無いためすぐに視線を元に戻した。
「どうする?一度退くか?」
ちらりと喜癒を見てから問う。
「退くことができるならね。この殺気からすれば無理だと思うけど…。ここは一気に切り抜けるしかないわ。」
冷静な目でユーリンは応えた。
ウィンリアはしゃがみ、喜癒をその身で隠している。
「喜癒くん、貴方は喋らないで。バーサーカーは脅えた気を発する者には容赦ないわ。」
それを聞き、喜癒は震えながら自身の口を手で塞いだ。
一撃目の際灯摩に庇ってもらった時から、彼の体の震えは止まらなくなっていた。
「あぁ。とにかく喜癒くんはさっき話してた通りウィンリアが護ってあげてくれ。…切り抜ける。」
灯摩の本気の顔に、ウィンリアは頷いて喜癒の肩を持った。
「いいか?俺が技を放ったら、二人は走って抜けるんだ。ユーリンは俺と一緒に二人を両サイドから護りつつあいつらを倒す!この際チップは無視だ!」
「イエッサ☆灯摩さん!」
ユーリンは武器を構えなおす。
灯摩は一度深呼吸をし、自身の剣に精神を集中する。
「…いくぞ!」
準備が整ったように顔をあげ、敵に刃先を向けて駆ける。
「趣流塵吹雪!!!」
そしてズバンと物凄い音をさせながら、一気に数体のバーサーカーをその剣で貫いた。
突然のことに、バーサーカーの群れが一瞬ひるむ。
「今よ!!走って!!」
ユーリンに言われ、ウィンリアは喜癒を立ち上がらせ駆け出す。
そんな二人をバーサーカーが追う。
「ついてくなってのよ!!」
そのバーサーカーをユーリンが思い切り斬る。
「喜癒くん!しんどいだろうけど頑張って走って!!」
「はい!」
「それと、もしもの時は貴方も戦うのよ!!」
「………はい!」
灯摩とユーリンに護られながら、ウィンリアは喜癒に言った。
喜癒は走りながらついてきたことを後悔するのと同時に、逃げるしかない自分に苛立っていた。
「…おかしい!!」
そんな矢先、戦っていたユーリンが異変に気付いた。
「どうした?!」
「バーサーカー、さっきより数が増えてる!!それにあいつ…。」
武器で指し示された一体のバーサーカーには不審な点があった。
「あいつは…チップがついてない!!さっき倒したはずの奴よ!!」
『な?!』
彼女の恐ろしいセリフに、一同は動きを止める。
止まったことで、灯摩も気付いた。
自身の目の前で、切り捨てたはずのバーサーカーが再生していくのを。
「嘘!!こいつら下級でしょ?!そうじゃなくたって、再生するバーサーカーなんて聞いたことないわ!」
ウィンリアが叫ぶ。
「ウィンリア、焦るな!今は落ち着いて対処の手段を考えるんだ!」
言うものの、灯摩もいい案を思いつくことが出来ない。
四人は囲まれたまま、気を抜かぬように睨みあいを続けるしかない。
ただ時間だけが過ぎる。
ユーリンは構えながらこの状況から上手く脱出する策を考えていた。
しかし、どんなに考えてもここにいる四人だけの力で逃げ切る策は思いつかない。
灯摩も考えていたが、やはりユーリン同様良策は浮かばなかった。
そんな中、上空で何かが動いた。
「!!誰だ?!」
その気配にいち早く気付いた灯摩が、木の上に隠れていると思われる誰かに叫んだ。
ウィンリア達三人も、木の上に目をやる。
確かに誰かの気配がしている。
「出てこないなら引きずり出すわ!!」
痺れをきらし、ウィンリアはその方向にむかって矢を放った。
矢は風を切って飛び、スタンと軽快な音をたてて木に刺さった。
すると気配の主はその木の上からひらりと降りてきた。
どうやらヒト族の少女のようだったが、全身に真っ黒な服を身に纏っており何処か気味悪さを帯びていた。
「最近のハンターは乱暴ね。こんな可愛い子達を殺すなんて。お陰でこっちは甦生に力使っちゃったじゃない。」
少女は近くにいたバーサーカーの頭を撫でながら、こちらを睨んだ。
その時点で明らかに普通ではない。
撫でられているバーサーカーは、実に気持ち良さそうな顔で少女に擦り寄っている。
「何者だお前…。見たところ人間のようだが…。」
灯摩は隙を見せないようにしながら問う。
少女はそんな灯摩をあざ笑うように、フンッと言い髪をかき上げた。
「私はバーサーカー。この子達と同じ、あんた達人間が狩りの的としか思っていない異形の者。」
言いながら四人の元に近付いてくる。
「…でもこの子達みたいな下等なバーサーカーじゃないわ。見ての通り、自我を持ち・言葉を喋り・そして何より美しい。高位バーサーカーよ。」
すぅっと少女が手を前に出すと、彼女に擦り寄っていたバーサーカー達が先ほどまでの殺気を取り戻し、一斉に灯摩に飛び掛ってきた。
「!!うわっ!!」
神経を集中させていたはずなのに、四方八方から飛び掛られた灯摩はバーサーカー達に突き倒される。
「あんたは肉が少なくて不味そうね…。あなた達食べちゃっていいわよ。」
微笑みながら少女が言うと、数匹のバーサーカーは灯摩の腕や足に噛み付き始める。
突き立てられる牙からの激痛に、灯摩は声にならない声をあげた。
先ほどから必死に振り払おうとしているのにも関わらず、体に全く力が入らない。
そんな光景をウィンリアが黙って見ているはずが無かった。
「灯摩ちゃんになにするのよぉぉぉおお!!!」
眼孔鋭く叫び、バーサーカー達に向かって矢を放つ。
矢は見事に当たり、バーサーカーは消滅した。
しかし、矢を射った後の一瞬の隙をつき、少女がウィンリアの懐に飛び込んできた。
「私の可愛い弟達を…殺すなって言ってんのよ!!!」
物凄い見幕で叫び、いつの間にか手に持っていたロッドのような物でウィンリアの腹に打撃を喰らわせた。
「―――――っっっがっ!!!」
みぞおちに入り、ウィンリアは木に叩き付けられたままうずくまった。
「こっちは無駄に胸に肉がついてるわね…。でも私の好みじゃないわ…。あんた達食べていいわよ。」
今度は後ろの方にいた比較的小振りなバーサーカー達がウィンリアに群がる。
「…さぁて、残るは…。」
少女はユーリンと喜癒の方を見た。
ユーリンは喜癒を護るように立ち、自身の体全体で喜癒を隠している。
「……決めたわ…。今日は貴女が私の夕食よ。」
持っているロッドの先についている月の形の装飾をユーリンに向け、少女は笑った。
「……私を夕食呼ばわりなんて…。貴女もなかなか度胸があるわね。」
武器を構え、ユーリンは少女の言葉に突っ掛かった。
「それは私が愚かだと言いたいのかしら?フフ…いきがったって無駄よ。貴女も数秒後にはあの二人のように私に食いちぎられるのよ。」
残酷なセリフに、ユーリンは思わずたじろいだ。
「それでもやっぱり、狩りをして手に入れたっていう快感はほしいわ。…示してみなさい。あなた達人間の言う『抵抗』というやつを…。」
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第三話やっとこ終了です。
遂にでました。敵キャラその一!
まだ名前は明かしませんが、日記の方で結構前にばらしてたりします。
ユーリンと少女。
勝つのはどっちだ!!