「ウィンリア!!」

6人が廊下を歩いていると、向こうの方からユーリンが駆けてきた。

服はいつものレオタードである。

ユーリンはそのままの勢いでウィンリアに抱きついた。

「ユーリン!どうしたの?」

ウィンリアの間の抜けた返事に、ユーリンは顔を上げる。

「何がどうしたの?よ!すっごく心配したのよ??避難勧告出てるのに暢気にドライブとか言ってたと思ったら、本当はさらわれたお父さんを助けに行ってたなんて!どうしてあの時私にも言ってくれなかったのよ?」

どうやら誰かにあらかた聞いたようである。

ユーリンの必死な顔に、ウィンリアは苦笑する。

「ごめん、ユーリン。でも、私ユーリンまで巻き込みたくなかったの。危険なことに、友達を巻き込みたくなかったの。」

ユーリンは首を振った。

「友達なら…なお更じゃない!私…自分でも弱くは無いって思ってる。力になりたかったのに…。」

ウィンリアに抱きついたまま、ユーリンはしくしく泣き出した。

どうやら相当心配させていたらしい。

ウィンリアは言葉を発するのをやめ、ユーリンをぎゅっと抱きしめた。

そんな様子を見て、灯摩はクラウドの方を見た。

「リトレアさん。避難勧告って…。」

彼の問いにクラウドは頷いた。

「万全の体制は崩さないつもりだからね。国民の人は、今ほとんどが城か最寄の大型施設に非難してる。バーサーカーの襲撃についてもその危険性があるっていうことで伝えてあるんだ。」

言いながらまた進み始める。

「君達には教えといた方がいいね。秋斗のとこに行こう。」

その言葉に、灯摩たちは再び彼に続いて歩き出した。

「ユーリン。行こう。私たちも。」

ウィンリアもユーリンの背中を押しながら進んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――


大きな作戦室につくと、そこでは秋斗や冬たちが忙しそうに動き回っていた。

「秋斗、冬姉様。ちょっといいかな?皆が帰ってきたよ。」

クラウドが言うと、秋斗はふと歩を止めてこちらに向き直った。

どうやら今気付いたらしい。

「あぁ、クラ……。ゴホン。リトレアか。………って!ドル兄!帰ってきたのか!?」

秋斗は驚き目を見開く。

彼の言葉にこちらを見ていなかった冬も振り返った。

「心配かけたな、秋。灯摩くんやウィンリア達のお陰でなんとかゼフィランサスのもとから逃げ出すことが出来たんだ。…それよりも話さなければならないことがある。」

ゼフィランサスは言いながら前に進み出る。

「これはゼフィランサスの所にいる間に、彼等が話していたことを聞いて仕入れた情報なんだが。どうやら、やはりバーサーカーは襲撃をかけてくるようだ。」

その言葉に、全員が息を呑む。

クラウドは胸の前で両手を握り締めてゼフィランサスを見上げた。

「どういうこと?兄様。やっぱり…ハイビィちゃんの言ってたことは…。」

不安そうにハイビィを見るが、それに気付いたハイビィは首をぷるぷるふった。

「私は嘘ついてないよ!私やゼフィーの知らないところで、あいつが…ラナがやってるの!」

「ラナ?」

そのまま言おうとするハイビィを止めて、またゼフィランサスは口を開く。

「ラナっていうのは、彼女たちと同じ高位バーサーカーの一人らしい。その彼が今、バーサーカーをつれてシャルンティアレとの国境の草原で待機しているそうなんだ。どうやら律儀にも『明々後日』を待っているみたいだな。」

周囲にいた者たちも、それを聞きこちらに向く。

「はっきり言うぞリトレア。このままここで奴等が来るのを待っているのは、正直頭が悪い。これから、こちらの防御班に支障が無い程度の兵を組織し、国境草原にこちらから乗り込んで本部を叩いてやる方が早いはずだ。どうだろう?」

言われて、クラウドは顔を青くする。

何しろ代役である彼が決断するには、あまりにも大変な選択なのだ。

困った様子で助けを求めるように秋斗の方を向いてみるが、秋斗も秋斗で困った様子であった。

この選択の決断を下せるのは、他でもないリトレアだけなのだから。

「………ドルの言う通りにしましょう。秋ちゃん、リッちゃん。」

しばらくの間を破るように、冬が言い放った。

二人は驚いてそちらを向く。

冬は胸の前で腕を組んで、口を開いた。

「ついさっきまでバーサーカーの所にいたドルの言う事よ。少なくとも、このままバーサーカーが襲ってくるのを震えながら待っているよりはいいと思うわ。こちらもそれ相応の行動をしなきゃね。」

「……でも、…冬さ…っ冬姉様。俺は…。」

言われてクラウドは不安そうな顔をして俯く。

その様子を見て、ウィンリア達は少し違和感を感じていた。

普段のリトレアなら、冬が言い出す前にイエスかノーを決断しているだろうからだ。

「……そう…だね。…分かった。これからすぐに隊の編成をして、秋斗。」

顔は上げずにクラウドは呟いた。

その自信なさげな態度に、何かを察した灯摩は口を開いた。

「リトレアさん。…美癒はどこですか?」

クラウドは頭を上げる。

「俺たちは、あの時ハイビィに話を聞いてから後美癒がどうなったのか知りません。でもあの時、確かにリトレアさんは言ってました。シャルンティアレに行こうって。もし美癒を連れて行くんなら、今日しかないと思うんですが…。」

「………こんな時に、わざわざ敵国に出向けって言うの?灯摩くん。」

灯摩が言い終わるか終わらないかというタイミングで、クラウドは彼を睨みながら言った。

「―――っ!!」

その眼力に、灯摩やウィンリア達は少し目を丸くした。

「秋斗、早く。剣士、術士、弓闘士、援護班、救護班、砲撃班を秋斗が最適だと思う人数を集めて。さっき、レイル国から来てくださった兵部隊の人たちは入れちゃ駄目だよ。

今現在うちの兵が守ってる場所に配置して、それまでそこにいた兵を軍に使うんだよ。もし、レイル国の兵が大勢亡くなってしまったら、以後の国交に問題が出てくるから。」

そして突然テキパキと指示を出し始めた。

「あ、あぁ…いや。御意に。」

驚いた様子で立っていた秋斗も、言われて足早に兵に収集をかけに行く。

「…あの、レイル国からの兵部隊って…。」

先ほどの話には触れてはならないと分かった灯摩は、話を変える。

クラウドは頷いた。

「アテナはもともと軍の人数が少ないからね。今回のような大規模な騒動のとき、うちだけじゃ到底対処できないんだよ。だから武術で有名なレイル国に助けを請う書状を昨夜送ったんだ。もともと熱い方たちだからね。快く兵を貸してくれたんだよ。」

その台詞をきき、話を傍聴していた利羅は周りを見渡した。

確かに共に策を練ったりはしているが、アテナ国軍兵とは違う軍服を身に纏った者が沢山いた。

しかし、それ以外にももう一つ何かの勢力があるようだった。

「あ……。」

その何かの勢力の正体に気付き、利羅は無意識に声を漏らした。

「どうした?利羅。」

灯摩が問うと、利羅はクラウドに目を向けた。

「なぁ、もしかして…バーサーカーハンターも混じってるのか?」

そう問うとクラウドは頷く。

「アテナだって、そんなに狭い国じゃないからね。沢山の市町村や集落の人たちを完璧に守るにはやっぱり心許なかったんだ。そしたら、非難していた人の中からバーサーカーハンターの人たちが集まってくれた。

自分達も戦いたいって。流石に全員に軍服は行き渡らないから、皆いつも狩りをしている格好なんだよ。」

『……………。』

そこで灯摩達の中で考えが一つにまとまった。

「リトレア…。いや。陛下、敵本部討伐部隊の編制完了しました。」

帳票を持って、秋斗が早々に帰ってきた。

陛下と呼ぶ辺り、そろそろ身を引き締める時である。

秋斗の差し出す帳票をパラパラと確認してから、クラウドは頷いた。

「レイル国の方は…入ってないね。よし、軍のことは俺よりも秋斗の方が良く分かってるだろうし、この編制でいこう。…じゃあ灯摩くん達は…。」

「俺も戦います。俺だってバーサーカーハンターです。…そして同時に、この国の民でも有ります。…出来ることなら…俺も討伐部隊に…。」

クラウドは目を丸くする。

「灯摩くん…。」

「私も!!お願いリトレアおじさん!弓闘士部隊に参加させて!」

「私もお願いします。私、ここを守りたい。」

ウィンリアも、そしてユーリンまでもが進み出る。

「ウィンリアちゃん…ユーリンちゃん…。」

「じゃあ俺も…。」

「おいおい、利羅は仮にもシャルンティアレの…。」

利羅が言いかけるのに灯摩が口を開くが、利羅は首を振った。

「おいおい、ここまできて今更俺だけ仲間はずれかよ?もともと葛城の里はこっちのもんだったんだ。だったら元の国に忠義を尽くすもんだって。」

言って二カッと笑う。

クラウドはしばらくキョトンとしていたが、ふ…と微笑んだ。

「…ありがとう。宜しくね、皆。」

『はい!』

全員が一斉に答える。

「…さぁ、秋斗。皆。行こう、国を…沢山の人々を守るために!」

クラウドがそう言い、灯摩たちが出て行くのを見つめながらゼフィランサスはふと笑った。

そんな彼に、冬がゆっくりと近付く。

「ドル。」

「冬…心配かけたな。」

優しく微笑みをかけてくるゼフィランサスに、冬は少し目を細めた。

「これで良かったんでしょ?ウィンリア達が協力していた辺り、貴方は悪い奴ではなさそうね。ともかく、今回の事が上手くいったら、ちゃんと『本物』返してよね。」

「!」

小声でそれだけ言うと、冬は立ち去っていった。

「…はぁ…やれやれ…。」

ゼフィランサスは苦笑する。

「すご〜い。あの軍人のおじさんもリトレア様も気付かなかったのに…。あのおばさん誰なのかな?」

「ドルのカミさんだよ。…なるほど、見た感じちゃらちゃらしてそうだが、出来る女みたいだな。」

ハイビィの言葉に、ゼフィランサスは答える。

「さて、そろそろ交代だな。」

「え…。」

言うとゼフィランサスは懐から手紙のようなものを出してハイビィに渡した。

「??これ何?」

頭に疑問符を浮かべるハイビィにゼフィランサスは笑いかけた。

「それを、ジキタリスに届けてくれ。渡せば分かるはずだからな。頼むぞ?」

 そう言うと、ゼフィランサスも部屋を出て行った。

「………ん〜。」

ハイビィは眉間にしわを寄せながらも、術でその場から消えた。




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