ザンッ

灯摩の剣がバーサーカーの肉体を切り裂いた。

彼らが戦闘に入ってからもうしばらくの時が経っていた。

「あぁもう!!全然切りがないわ!!」

その後ろでウィンリアが鬱陶しそうに叫びつつ矢を放つ。

「騒いでたって仕方がないだろ!とにかく数を減らすことに専念しろ!」

灯摩がそんなウィンリアに諭しながら、向かってくるバーサーカーを払いのけていく。

当初大量にいたバーサーカーは灯摩たちやアテナ王国の討伐部隊によって半数以下に減らされていた。

しかし流石に残っているものは手ごわいものが多く、一度切ったくらいでは生命チップにすら変化しない。

皆それに対して焦ってはいるものの、善戦を記していた。

ただしそれに対してはとある他方からの圧力がかかっていたことには、ほとんどが気づいてはいなかった。

気づいていたとすれば…。


「ラナ!!お願いだからやめてよ!!戦うよりも私に…私たちにお母さんの本心を教えてよ!!」

「うっせーんだよタコ!!誰がお前みたいなへたれ娘に教えてやるか!!」

「私はヘタレなんかじゃない!!」

戦いの中心部で同胞のはずなのに対立して戦っているラナンキュラスとハイビィ。

彼女達の戦いはどちらが優勢とも劣勢とも言えない白熱したものだった。

ラナンキュラスはその戦いの最中、ハイビィの後ろから感じられる確かな存在の影に気づいていた。

「……………。」

一瞬ラナンキュラスは策をひらめき、その場で足を止めた。

そして振り返った先には他のバーサーカーと戦っているユーリン。

ラナンキュラスには彼女は中でも一番弱そうな獲物として映った。

「丁度いい。見極めてやらぁ!!」

ハイビィの隙を突き、ユーリンに向けて弾丸を放つ。

「!!!」

敵をなぎ払った直後だったユーリンは隙だらけだった。

「ユーリン!!危ねぇ!!」

ラナンキュラスの弾道は確実だったが、そこで思わぬ邪魔…利羅が入った。

彼は反射的にユーリンを庇う形で着地した。

タァンッ!

…と軽快な音がその場に響く。

「――――――っっ!!!」

ユーリンの顔が青ざめる。

利羅はその場に前のめりに倒れた。

「利羅!!利羅!!!」

ユーリンが慌てて彼に駆け寄る。

その際彼女に向かって襲い掛かってきたバーサーカーは討伐部隊の兵士たちが消滅させた。

「利羅!!お願い、返事して!!!」

半泣きになるユーリンだったが、利羅は意外とあっさりと動きを見せた。
「っ!びっくりしたぁ…。」

彼から最初に零れたのはその台詞だった。

確かに当たった筈の体には何の傷もなく、彼自体もピンピンしているようであった。

それを見てラナンキュラスは鬱陶しそうにチッと舌打ちをした。

「……なるほどねぇ。色男が護ってるってわけか…。しかもこの大人数を誰一人欠けることなく。その上お前みたいな弱小娘に力を与えながら…。さすが源魂(げんこん)の高貴な奴は違うのね。」

ニタリと笑い、ハイビィを見る。

その笑みを見て、ハイビィはまずいと思った。

彼女も薄々勘付いていたのだ。

 

―――ゼフィランサスが自分たちを何かの術で護っていると―――

 


先ほどから彼女の眼にも不可思議な現象が映っていた。

今倒れていたと思った兵士が傷を一瞬で癒し、再び立ち上がっていた。

今バーサーカーから放たれた火球が、兵士たちに当たる手前で飛び散って消滅した。

そこまでの守護天術を使えるものを、ハイビィはゼフィランサス以外知らなかった。

もっとも最初はあの秋斗が護っているのかとも思っていたが、彼が放つのは専ら攻撃天術だった為、その考えは消え失せていた。

そんなことを考えていると、気づけば目の前にはラナンキュラスの姿が迫っていた。

同時に腹部への衝撃。

ラナンキュラスの右手こぶしがハイビィの腹にめり込んでいた。

「くはっ!」

「おらおら!吐き易くしてやったよ!!とっととゼフィランサスの居場所を教えな!!」

地に伏すハイビィに向かって叫ぶ。

「…し…知らない…。知らないよ。ゼフィーが何処にいるかなんて!!私にだって教えてくれないことあるもん!!」

ハイビィは必死に叫んだ。

しかしそんな彼女に対してラナンキュラスは更に打撃を加える。

今度はゼフィランサスのサポートが聞いたのか痛みは無かったが、その力にハイビィは後ろに倒れた。

「あんたらゼフィランサス組が知らないわけ無いだろうが?とぼけてたっていずれわかるんだよ。こんな風になぁ!!」

ラナンキュラスがパチンと指を鳴らすと、その背後に誰かが現れた。
「はぁい?ハイビスカス。ちょっと前はどうもv」

エーデルワイス……。

まずいという思いがハイビィの脳裏をよぎる。

何しろエーデルワイスは……。

「キャハハハハ!!見せてもらいましょうか?あんたの中身!!」

そのまま高笑いをすると、エーデルワイスはハイビィの頭を掴んだ。

食い込む爪。

「キャアアアアアアアアアア!!!!!!」

その痛みにハイビィは絶叫する。

個々に戦っていた討伐部隊や灯摩たちが一斉にそちらを見る。

「ハイビィちゃん!!」

自身に飛び掛ってきていたバーサーカーを掃い除け、ドルリアがそちらへ向かう。

しかし彼の前にラナンキュラスが出る。

「邪魔しないで下さるかしら?オリジナルさん!!」

「――っ!!」

放たれた弾丸を寸でで避ける。

「いいかいあんたら!!よぉく見てな!!あんたたちがここまで上手いこと戦えてるその理由をね!!」

ラナンキュラスがそう叫ぶと、それを合図にでもしたかのように周囲の空が真っ暗になった。

そして空がぼやけ、ゆっくりとその中心に人影が現れ始めた。

写ったのは………ゼフィランサス。

映像の中の彼は両手に巨大な天術の球を浮かべ、ずっと何かの呪文を唱えているようだった。

それを見たその場の者は皆彼の容姿に戸惑った。

「……そんな…なんでドル兄が…?」

秋斗がそうこぼす。

「ドルリア様…なんで…。」

クラウドもリトレアの振りを忘れ、素でそう呟いた。

その場の者が皆あっけに取られている間にその画面は引いていきいつの間にかゼフィランサスのいる…あの廃墟を映していた。

「何だ。やっぱり知ってるんじゃない。ゼフィランサス様が今どこにいるか。かまととぶるのも対外にしなさいよ?」

何もかも吸い取られたかのようにぐったりしたハイビィをエーデルワイスは足蹴にする。

彼女には人の頭の中身を見る能力が備わっているようであった。

エーデルワイスは苦悶の表情を浮かべるハイビィを見下してにたりと笑った。

「ちが…私は…ほんとに知らなくて……今のは…想像で…。」

咳き込みながらハイビィはそう言うが、エーデルワイスはなおも彼女を踏みつけた。

「ねぇラナンキュラス。私、ちょっとゼフィランサス様のところに遊びに行ってきてもいいかしら?どうしようもないほどあの人と遊びたいのよねぇ。わ・た・しv」

邪悪な笑みを浮かべて言う。

「好きにしなさい。あんたの好きなようにね。この甘ちゃん組にはきついお灸をすえてやらなきゃねぇ。」

ラナンキュラスも笑みで返すと、エーデルワイスはすぐにその場から消えた。

「貴様!!何をたくらんでいるんだ!!さっきから聞いていれば…好き勝手なことを!!」

たまらなくなってドルリアが叫ぶ。

「お前たちの目的は一体何なんだ!どうして干渉する!!」

秋斗も一緒になり言う。

二人を見てラナンキュラスはクックと笑った。

「目的は何ですって?そんなものないっつーのよ。私たちはただ主君の為に行動しているだけよ。それ以上の理由もそれ以下の理由もないわ。」

そのまま銃を構えた手を天に掲げる。

「そうね。言ってみれば『存在意義』なのよ。こうやってあんた達無粋な人間たちを消すことがね。それが私たちに備わった正義。」

腕を下ろし、銃口をクラウドに向ける。

「その正義を貫くためにも、ここであんた達には消えてもらわないといけないのよ。そしてその後アテナに住まう弱者共も消しまくって。私たちと主君と……そしてそのご息女と共に生を満喫するのよ。」

周囲でバーサーカーたちが動きを止める。

その体は怪しく光輝き、まるで力が上がっていっているように見える。

「動け、妖艶に。喰らい尽くせ、永久に。………総牙刑(そうがけい)!!!」

ラナンキュラスが叫んだと同時にドォンと音が響き、バーサーカー達がまたも一斉に飛び掛ってくる。

「きゃあぁあ!!」

「!!」

突然のことに灯摩達を初めとした全員が驚き、たじろぐ。

前触れも無く爆音がこだまし、討伐部隊の兵士たちが何人か木の葉のように天に舞い上がった。

 「はははははは!!!!そうよ、そのまま殺しなさい!!人間に己の無力さを思い知らせてやるのよ!!そして、二度と私たちにたてつけないようにしてやりなさい!!!あっははははははははは!!!!」

凶悪に笑いながら、ラナンキュラスはクラウドに向かって駆ける。

「!!!」

思いもかけぬことにクラウドは顔色を真っ青にする。

「クラウド!!伏せろ!!」

秋斗が察知し、クラウドの護衛に向かう。

「どけやコラァ!!いてこましてやるわぁ!!!」

ものすごい形相でラナンキュラスは叫ぶ。

銃を構え秋斗に向けて弾丸を放つ。

「『防壁』!!」

自身ではなくクラウドに護りの壁を作り、秋斗は前にとびだす。

「好きにさせるか!!……『逆射攻返』(ぎゃくしゃこうへん)!!」

天術の詠唱を唱えると、秋斗に向かって撃たれた弾丸が踵を返すようにラナンキュラスに向けて反り返った。

「っ!!あいつと同じような珍妙な技を…!!」

それを新たな弾丸で撃ち落し、ラナンキュラスは舌打ちをした。

そんなラナンキュラスを秋斗は静かに睨む。

「…何が存在意義だ。それが他人の平穏を侵す正当な理由になるとでも思っているのか。」

「…えぇ思っているわ。貴方くらいの男なら分かってはいるでしょうけど、この世界はね…腐乱した人間で埋め尽くされているのよ。それを全て殺し、リセットして新たな世界を作り出す。それが我らの主君の望み。

そしてそんな主君に私たちは作り出された…だから従い人間を殺す。そうすることで私たちは認められる。存在を肯定してもらえる。私はここにいるのだという、確かな実感を得ることができる。それが至福でたまらない。」

憂いを秘めたような顔で少しだけ語る。

しかしすぐに眼球だけがギョロリと動き、その眼にクラウドを写した。

「だからあんたみたいな偽善者は邪魔なのよ。死ねや!!リトレア・バーンズ!!!」

片手を前に突き出すと、クラウドに向かって大きなバーサーカーが飛び掛ってきた。

「!!くっ!!」

しかし秋斗から受けていた防壁により、バーサーカーは跳ね飛ばされた。

ただしクラウドは突然の恐怖に腰を抜かす。

実際彼はその場にいるだけですでにいっぱいいっぱいだったのだ。

「っ!!クラ…っっぅあっ。」

そちらに気をとられた秋斗の背をラナンキュラスは足蹴にして飛び上がる。

「!!」

「あっははははははは!!!!これで終わりだぁああ!!」

宙に浮いたまま先ほどまで持っていた拳銃を捨て、太ももに携えていたもう一丁の拳銃を構える。

「っ!!やだ…っ。」

力を振り絞ってクラウドは立ち上がる。

その刹那、ラナンキュラスは引き金を引いた。

タンッ

明らかに当たった音が響く。

しかし立ち上がったクラウドはその場から逃げようとして走り出していた為、放たれた弾丸は……彼の脚に当たっていた。

「痛っくぅ…。」

痛みからクラウドは前に倒れる。

そんな彼にラナンキュラスは高速で近づき、その勢いのまま弾丸の当たったクラウドの脚を踏みつけた。

「っっうぁぁああっっ…!」

「んふふ……。もう逃げられないわ………っ!?」

にたりと笑って彼を見つめたその時、ついにラナンキュラスは気づいた。

知っていたわけではない。

ただラナンキュラスの内にある直感が、警告を発していた。

こいつは本物ではない…と。

「……偽者…。」

そう呟くと、クラウドは眼を見開いた。

「リトレアさんから離れろ!!」

しばらく動きを止めていたラナンキュラスに向かって、灯摩が剣をふるう。

「っ!また邪魔かっ!」

その剣を器用に拳銃で受け止める。

「……あら、貴方もしかして『柊灯摩』じゃないの?」

近づいた灯摩の顔を見て、ラナンキュラスはふと笑った。

「……何っ?」

「まさかここにいるなんて…運がいいわね。でもどうして貴方まで戦うの?貴方は生き残ることが許されているのに。」

「…それって…。」

灯摩が困惑していると、その場に強い風が吹いた。

強い…強い風。

ガランッ…

ウィンリアが弓を落とした。

「…何…?」

風はやまない。

ユーリンは武器を握り締めた。

「何なの?この…嫌な風…。」

風はまだやまない。

利羅が空を見上げた。

「………何だ…あれ…。」

見上げられた空に黒い小さな影があった。

それを中心に風が竜巻のように、しかし穏やかにぐるぐると吹いている。

その影は翼の生えた人間の影だった。

皆が呆然と見上げる中、その人影は…。

にたりと笑った。

一同は目を疑う。

 

 

そこにいたのは、変わり果てた喜癒だった。

 

 

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