「さ〜ぁ座れ座れ。好きなとこに座れ!」

ドルリア…ではなく、偽ドルリアは楽しそうに灯摩達に言った。

三人が案内されたのは、アテナ城のものと同じような会議室だった。

偽ドルリアはスタスタと進み、いちばん大きくて豪華な椅子に腰掛けた。

灯摩たちも言われるがままにパラパラと椅子に座った。

「おい!メイド!コーヒー2杯、ミックスジュース2杯今すぐ用意しろ!」

それを見て偽ドルリアが叫ぶと、パァンと軽快な音とともに奥の扉からハイビスカスが飛び出してきた。

「はいなはい〜〜♪乾いた心を潤すプリティーメイドvハイビィ参上!!」


軽い足取りでぴょんぴょん跳びながら、偽ドルリアと灯摩にコーヒーを、ウィンリアと利羅にミックスジュースを出した。

そして最後には偽ドルリアの隣にある彼女専用と思われる可愛らしい椅子に座り、懐からトマトジュースを出して飲み始める。

「さぁて、準備は整った。語らうとするか。」

コーヒーを一口飲みながら偽ドルリアは言う。

「…待って!その前に早くお父さんの変装といて正体見せなさいよ!いつまでもそんな格好でいないで!」

いい加減たまらなくなったのか、ウィンリアが訴えた。

しかし偽ドルリアは首を振った。

「そりゃ無理だ。何たって…。」

そう言い、一瞬でウィンリアの隣に移動する。

そしておもむろにウィンリアの手を掴んだかと思うと、自分の頬を引っ張らせた。

「!!!」

突然のことにウィンリアは驚く。

そして自分が触った感触に驚き、目を丸くした。

「……嘘…。」

「どうしたんだ?ウィンリア?!」

慌てて灯摩が問うと、ウィンリアは俯いた。

「……変装じゃ…ない…。」

その問いかけに、ウィンリアは言葉を搾り出すように答えた。

「え!?」

彼女から出た言葉に、灯摩と利羅は驚き、顔を見合わせた。

偽ドルリアは三人の反応を見て、満足そうに笑いながら自分の席についた。

「そういうこと。俺様は変装なんかしちゃいねぇってわけ。つまりお前等の言う『ドルリア』と同じこの顔が、正真正銘俺様の顔だ。」

パンパンと自分の頬を叩きながら、偽ドルリアは言い放った。

けれどすぐに体勢を整える。

「自己紹介が遅れてたな。俺様は勿論ドルリアじゃない。俺様の名は……ゼフィランサス。バーサーカーの現在の主導者である…グラジオラスによって創りだされた高位バーサーカーであり、全バーサーカーの指揮をしている者だ。」

「……貴方が…やっぱりゼフィランサスだったのか…。」

先ほどの彼の台詞から、灯摩は気付いていた。

ゼフィランサスは肩をすくめる。

「あぁ。その通りだ。……さて、それじゃあ今度こそ話に入るか。お前等がまたここに来た理由は大体分かる。あいつを…ドルを迎えに来たんだろう?」

ちらりと自身の隣に座っているハイビィに目をやる。

「プラス、こいつの言ったことがどうしても信じられなくて、俺様に直接話を聞きに来た…と。」

灯摩はその言葉に頷いて返した。

「…その通りです。…俺たちには…どうしても信じられない。…一体何が本当で、何が嘘なのか…。誰が嘘をついているのか、本当のことを言ってるのか。…どうしても……。」

灯摩の台詞に、ゼフィランサスは首を振った。

「教えてやるよ。ハイビスカスがお前達に説明したこと。あれは9割が本当だ。俺様はあの女に…グラジオラスに指示されて動いている。その指示の中に、本当にアテナにバーサーカーの大群を向かわせるというものは無かった。

今まで通りの量のバーサーカーだけを、森や荒地に『配属』するとしか。シャニーナやアテナ王国内をかく乱させる役目はジキタリスが担っていた。」

「………9割って…あとの1割は…?」

利羅が問うとゼフィランサスは頬杖をついた。

「“本当にグラジオラスはバーサーカーを襲わせるつもりが無い”だな。あの女の考えてることはよく分からん。今までは大抵俺様が止めてきたけど、俺様の知らないとこでなにやってるかは分からないからな。

だから、ハイビスカスの言ったことは本当だが、それが確実に本当になるかは分からんわけだ。それが残りの1割。」

ゼフィランサスの言葉に、灯摩は信じられないと言った様子で立ち上がった。

「そんな!!!じゃあやっぱり、アテナにバーサーカーの大群が攻めてくるっていうのが完璧に嘘って訳じゃないってことじゃないか!!」

「そうよ!!ふざけないで!今頃リトレアおじさん達は安心して…。」

続けてウィンリアが言いかけると、ゼフィランサスは二人に手のひらを突きつけた。

「黙れ。お前等はあのリトレアがそんな簡単にバーサーカーの言う事を信じてると思ってるのか?ありえないな。あいつは『昔』っから疑り深い奴だ。対バーサーカーの準備を止めたりはしてないはずだ。」

いわれ、二人はぐっと黙った。

「それに、もし本当にバーサーカーが襲撃を開始しても、この俺様が止めてやる。あいつらは俺様に逆らうとどうなるかをちゃんと分かってるからな。」

言いながらゼフィランサスはニカッと満面の笑みを浮かべた。

灯摩たちは座りなおし、不審そうな顔をする。

「……あんた、本当にバーサーカーなのか…?なんでそんなに俺たちに協力しようとしてくれるんだよ…?この前だってご丁寧に城まで戻したりして…。」

灯摩が口を開く前に、利羅がまた問うた。

するとゼフィランサスは溜め息をつく。

「バーサーカーだからって、全員が悪者だと思うなよ。俺様はたとえ自分を創ってくれた奴だっていったって、あの…グラジオラスのやろうとしていることに献身的に協力してやるつもりは無いからな。………特にここを…アテナを潰すなんて言いやがったら…俺様はためらいなくあの女を殺すつもりだ。」

そう言って立ち上がり、壁にかけていた絵に目をやった。

「……あんた…何でそこまでアテナに…。」

「この絵を見ろ。これはある男が描いた絵だが…どこか変だと思わないか?」

利羅の台詞を遮ってゼフィランサスは言う。

その言葉に、三人も言われた絵を見た。

絵は決して大きくなく、B4サイズくらいだった。

額縁に入れられたその絵の中には同じ顔の…双子と思われる少年と、その間にその少年達より少し幼そうな少年が描かれていた。

三人とも楽しそうに笑っている。

ただし…。

「何それ……血?」

ウィンリアが思わず口に手をあてる。

彼女の言った通り、その絵の双子の片一方の顔には古い血の痕がくっきりと残っていた。

飛び散ったと言うよりは誰かがその顔の上から擦りつけたようだった。

「そう、血だ。この血はこの絵を描いた男の血だ。」

ゼフィランサスは悔しそうにその絵に手を触れる。

「その男は、アテナを…アテナの国民を護るために必死になって…傷付くまで戦った。自分で描いた絵に、完成と同時に自分の血を擦りつけてめちゃくちゃにするくらい不安定な精神状態で。…俺様はその男が護ろうとしたアテナを…ずっと護ると決めているんだ。」

言いながら振り返る。

「だから別に、俺様はお前達に協力しているつもりはない。俺様はアテナを護れれば誰が敵で誰が味方だろうが関係ない。…俺様はこの『生』を…ただあいつのために使っているだけだ。」

はっきりと言われた言葉に、三人は息を呑んだ。

少し考えてウィンリアが口を開いた。

「…それじゃあ何で?…何でジキタリスがアテナの国民を殺していることを、貴方は止めないの?その絵を描いた人の守ろうとしたものには、アテナの国民も入ってるんでしょ?」

彼女の言葉にゼフィランサスは溜め息をついた。

「出来たらそうしたいがな…。でもダメだ。あいつはあいつでグラジオラスに命令されて動いている。俺様が止めたとしても、命令に逆らったことになるジキタリスがあの女にボコボコにされる。あいつなりに殺すのはバーサーカーハンターのみにしてるみたいだが…。……あいつも可哀相な奴だ…。」

やれやれといった感じで、ゼフィランサスは言った。

「……その…グラジオラスって…いったい…。」

灯摩が先ほどから何度か出た人物について問う。

ゼフィランサスは笑う。

「お前なら知ってると思うけどなぁ、多分。ん?『灯摩ちゃん』?」

「な!!」

明らかに馬鹿にしているその態度に、灯摩はまた立ち上がった。

その時。

「!!!大変!!ゼフィー!!」

突然ハイビィが叫んだ。

皆が何事かと彼女に目をやる。

ハイビィはゼフィランサスに抱きついた。

「ゼフィーがさっき言ってたこと、本当になる!!あいつが…ラナが動き出した!!」

自身の頭につけているリボンを必死に触りながらハイビィが言った。

彼女の台詞に、ウィンリアは目を見開く。

「さっき言ってたことって…。まさか、本当にバーサーカーが?」

ハイビィはこくこくと頷いた。

「リボンにピピピってきたの!ラナの奴、バーサーカーを集めてるよ!ここに…アテナに攻めてくるつもりだよ!やっぱりお母さん、私達のしらないとこで計画を進めてたんだ!」

ぽろぽろと泣き出すハイビィを見て、心の中では半信半疑だった灯摩や利羅も真剣な顔になった。

ゼフィランサスはそんなハイビィの頭を撫でながら灯摩達に視線をやった。

「……そういうことだ。どうやら本当に『嘘』が『嘘』になっちまったようだな…。……おい、お前等俺様をアテナ城に連れて行け。」

「え!?」

彼の口から出た言葉に、灯摩は驚く。

「言っただろう?もし来たとしても俺様が止めると。グラジオラスがシャニーナの依頼を本当に受けたのなら、バーサーカー達は必ずアテナ城を目指して来るはずだ。俺様がお前等の国に色々助言してやるよ。」

その真剣な眼差しに、灯摩は頷いた。

「私も行く!ゼフィーと一緒がいい!!

ハイビィはヒシとゼフィランサスにしがみついた。

「さて、じゃあ…。寝るか。」

ガクンッ。

城に戻る気満々だった灯摩たちは、突然のゼフィランサスの言葉にずっこけた。

「な!!ここまで盛り上がっといて!大体急がなきゃいけねーんだろが!?」

利羅が慌てて叫ぶと、ゼフィランサスはぐっと背伸びをした。

「大丈夫だっての。俺様の完璧な策にかかりゃバーサーカーの雑魚ぐらい一掃だ。それよりも体力を万全にしとかないといけないだろう?今何時かわかってんのか?」

指差される時計を見ると、もう夜中の2時を回っていた。

「え…いつの間にこんな時間に?」

「お前等がこの建物についたのが午後9時。俺に会ったのが深夜0時。お前等は4時間ずっと廊下を歩いてたんだよ。俺様がちょっと遊んでやったからな。時間と疲れを感じさせないように。」

へらへらと笑いながら言い放つ。

「そんな…。そんなに時間が経ってたなんて…私全然気付いてなかった。……でも!それでも早く戻らなきゃ…。」

訴えるウィンリアを見て、ゼフィランサスは指をパチンと鳴らした。

「『皆眠静寂』」

そして天術を使う時のような呪文を唱えた。

『!!!』

途端、灯摩たちに耐えられないほどの眠気が襲い、次の瞬間には三人はその場にパタパタと倒れていた。

「わ、ゼフィーってばやっぱりすること全部無理矢理…なん…だ……か…ら。」

起きていたハイビィもじわじわと効き目が来たのかゼフィランサスの服を掴んだまま、ずるずるとその場にしゃがみこんで眠り始めた。

「……そうだ。どっち道行くのは明日…いや夜が明けてからの方が都合がいい。多分早朝に出発して城につく頃にはリトレアはいないだろうからな。まだあいつにだけは会わん方がいい。……だろう?ドル。」

眠っている4人を見下ろしながら、先ほどハイビィが飛び出してきた扉に向かって声をかける。

扉の奥からは、ゆっくりとドルリアが出てきた。

「…そうだな。きっと気付いてしまう。……それよりどうするんだ?さっきのバーサーカーの襲撃の話。本当に止められるのか?」

「あたり前だっての。この俺様に不可能はない。それにさっき言ってるの聞いてただろう?俺様はこうして手に入れられた『生』を…この絵を描いた…お前の為に使っていると。お前のためなら俺様はなんだってしてやる。」

ドルリアに近付き。彼の頭を優しくポンポン撫でる。

「今は流石に言えんが、時期に黒幕についても教えてやる。大丈夫だ、今度こそすべて上手くいく。」

そう微笑むゼフィランサスに、ドルリアは微笑んだ。

「ありがとう。『アナザー』」

その台詞に、ゼフィランサスは首を振った。

「俺の名は『アナザー』なんかじゃねぇ。俺はグラジオラスに創られたバーサーカー…『ゼフィランサス』だ。」

そして静かにそう言った。






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