美癒への尋問の次の日、灯摩たち3人は早朝に城から出発していた。

「利羅君。ちょっといい?」

そんな中、灯摩たちを見送った後廊下を歩いていた利羅をみつけてリトレアは声をかけた。

「?なんすか?」

不思議そうに利羅が返すと、リトレアは彼に近付いてきた。

そして手のひらサイズくらいの布の袋を利羅に差し出す。

「?これは?」

「君にお願いがあるんだ。」

真剣な顔で言うリトレアの次の言葉を利羅は待つ。

「…兄様たちの後を追って、三人と合流してくれる?」

「え…。」

意外なことに利羅はポカンとしてしまう。

「ごめんね、突然こんなこと言って…。でも、危険だと思ったらすぐに逃げてくれていいから。やっぱり二人だけじゃ不安なんだ。……美癒ちゃんのことだって、まだ全部信用できないから…。」

彼の真剣な顔に、自然と利羅も真剣な顔になる。

差し出される布の袋を受け取ってみると、中からはジャラリと沢山の硬貨が擦れる音が聞こえてきた。

利羅はすぐにその布の袋をリトレアにつき返した。

「!!……そっか…。やっぱダメだよね。ごめんね、お金なんかで使おうとして…。」

利羅の態度に、リトレアは悲しそうな顔をして俯いた。

しかし利羅はすぐに口を開いた。

「誰も嫌なんて言ってねーっすよ。俺は金で動く気はないだけ。急いだ方がいいんだろ?すぐ行くな!」

利羅はそう言い、タカタカと窓に向かって駆けて行く。

「じゃあ、行ってきます。」

リトレアにヒラリと片手を振り、利羅は窓から跳び出して行った。

残されたリトレアは、悲しそうに俯いて胸の前で手をぐっと握り締めた。

「……やっぱり…ダメだよね…俺って…。」


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「こっちよ、二人共。」

灯摩とドルリアの上を霊力で作った翼で飛びながら美癒は道案内をしていた。

勿論そのまま逃げられないように、足首にはロープ付きの枷をはめている。

そのロープの端を灯摩が持って、美癒について行く。

「ついた!ここよ。」

美癒は翼をたたんで地面に舞い降りた。

三人が到着したのは街からもかなり離れたところにある大きな廃墟だった。

「ここにゼフィランサスがいるのかい?」

「えぇ。何度か来た事があるから分かる。さっきも言ってたけど、ゼフィランサスさんはこの場から離れる事はほとんどないみたいだもの。」

言いながら、美癒は中に進み始める。

「さぁ、早く行きましょう。」

ちらりと振り返りながら、言う美癒に続き、灯摩とドルリアは歩き始めた。

その時ドルリアは灯摩の肩を軽く叩いた。

「?何ですか?」

「…彼女には注意しておいてくれ。まだ信用はできないんだからね。」

ぼそりとそう言うドルリアに、灯摩は黙ってコクリと頷いた。

「…何か秘密話?」

そんな二人の態度に美癒が問うてくる。

明らかにこちらを怪しんでいる彼女の顔を見取り、灯摩は慌てて取り繕おうとした。

「……ーい。ぉーぃ!」

その時遠くの方から誰かがこちらに声をかけてきた。

声の主はこちらに手を振りながら走ってくる。

追いついてきた利羅だ。

「利羅、お前なんでこんなとこに来たんだ?」

灯摩が問うと、利羅は彼等の前で止まり2〜3度深呼吸をした。

「色々あってさ〜。俺もついてきたんだ。人数多い方がいいだろう?な?灯摩兄ちゃん。」

バシバシと灯摩の背中を叩き、利羅は笑う。

「…もう、何なのよ…。来るなら最初から来れば良いのに…。」

そんな二人のやりとりを見て、美癒は呆れたように溜め息をつくと再び進み始めた。

そんな彼女の先ほどとの態度の変わりようを見て、ドルリアは彼女への不信感を一掃強めたのだった。

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暫く進むと、四人は大きな広間へと辿り着いた。

やはりバーサーカーの潜む廃墟とあって途中何度かバーサーカーに襲われたが、それぞれが戦ってなんとか切り抜けることができた。

広間に入ると、その部屋の中にはもの悲しげなオルゴールの音が響き渡っていた。

「…なんか…不思議なとこだな…。なぁ、灯摩兄ちゃん。」

部屋の中を見回しながら利羅が灯摩に言う。

「そうだな…。まぁ場所が場所だしな。」

利羅にとってはここに辿り着くまで、美癒はすたすたと進んでいくし、ドルリアは黙ったまま辺りばかりきょろきょろ見回していたため、灯摩しか話し掛ける相手がいなかったからだ。

四人がその場にポツンと立っていると広間の端の方でガタリと音がした。

「!!誰だ?!」

灯摩が思わず叫ぶと、音のした方に一人の少女が立っていた。

「誰だとは何よぉ。それはこっちのセリフだわ!」

少女は溜め息をつきながら広間の真ん中に置いてあった大きな机に腰を下ろした。

「ハイビスカス。ゼフィランサスさんは何処?」

少女の事を知っているような口調で美癒は問う。

「ちょっと!私のことはハイビィって呼んでっていったでしょ?!その方が可愛いんだから。ゼフィーなら、ほら。そこにいるじゃない。」

言ってハイビスカスはドルリアの方を指差す。

「えっ。」

それに驚きドルリアが声を出すと、そんなドルリアの肩に誰かの手が置かれていた。

「!!」

その人物の気配に誰も気付いていなかった為、灯摩達は一斉に後ろを振り向いた。

すると後ろに立っていたのは、頭からつま先まで真っ黒なローブを身に纏った背の高い人物だった。

「ゼフィー。なんかこの人たちゼフィーに用事があるみたいよ。お話ししてあげたら?」

ハイビスカスがそう言うと、黒いローブを着た人物・ゼフィランサスは灯摩たちの間をスタスタと進んで机と対で置かれていた大きな椅子に腰掛けた。

「言われなくてもそのつもりだ。ガキは引っ込んでな。」

ゼフィランサスの第一声はそれだった。

口調や声色から、男性である事は明確だった。(バーサーカーに男性というのも妙ではあるが。)

「んで?見たところそこのロン毛が責任者みてーだけど、とっとと用件言ったらどうだ?ま、何となく分かるけどよ。」

彼の問いかけに、ドルリアは一度落ち着いてから前に進み出た。

「察しの通りです。こちらの美癒から聞きました。我等の国・アテナに対して、貴方たちバーサーカーが侵攻していると。王からの使者としてお願いします。どうか、貴方の力でそのバーサーカーの侵攻活動を止めてはいただけないでしょうか?」

彼が言い終わると、ゼフィランサスはローブの奥で溜め息をついた。

「それが人に物を頼む態度かよ。」

彼の言葉に、ドルリアはドキッとした。

必死に頭の中で言い方を間違ったところがないかを考える。

ゼフィランサスはローブに隠れていた腕を伸ばし、ドルリアを指差した。

「あんた。土下座しな。」

「!!」

予想もしない言葉に、全員が驚く。

ドルリアはほんの一瞬躊躇ったが、すぐに目を閉じその場に膝をついた。

それを見て慌てて灯摩と利羅も膝をついた。

「おいおい。誰がお前らもって言ったよ?俺様はそいつが土下座するように言ったんだぜ?立て立て。これからが面白いんだからよ。」

ゼフィランサスはそう言うと、ついさっき座った椅子から再び立ち上がり、ドルリアの前にしゃがんだ。

「ほら。これ食え。」

差し出されるのは少し大ぶりな飴玉。

「……これは…。」

「いいから食え!!」

突然叫び、ゼフィランサスはその飴玉をドルリアの口に押し込んだ。

立ち上がった灯摩達は、少し離れてゼフィランサスの意味不明な行動を見る。

「うまいか?」

「…………。」

口の中で少し飴を転がして、ドルリアは小さくコクリと頷いた。

そのドルリアの顎を掴み、ぐいっと上を向かせる。

口に飴を含んだまま上を向かされ両頬を指で押さえられたドルリアは、半開きの口から飴玉を覗かせたお世辞にもいい姿とは言えない状態になる。

灯摩と利羅は辛くなって目をそむけた。

「………気に入った。」

しばらくそんなドルリアを見つめていたゼフィランサスは、そう言って立ち上がる。

「こっちから一つだけ条件を出す。もしそれをお前らが受け入れるなら、バーサーカーの侵攻なんか今すぐ止めてやるよ。」

顔は見えないが、灯摩達を笑っているのは分かった。

「……その…条件は…?」

ドルリアの代わりに灯摩が返す。

ゼフィランサスはローブに隠れた口でフッと笑った。

「こいつちょうだい。」

自らの足元で座ったままのドルリアを指差して、軽く言った。

「!何言ってんだよ、てめぇ!んなことできるわけ…!」

利羅が叫ぼうとすると、ドルリアは彼に手のひらを向けてきた。

「!ドルリアさん…?」

「…言う通りにしよう。それで本当に済むのなら、それが一番だ。」

口に飴を含んだままドルリアはそう言った。

「ダメです!…そんな、そんなこと…。ドルリアさんを犠牲にするなんて…。」

「灯摩さん。貴方はドルリアさん一人とアテナの国民全員とどっちの命が大切なんですか?勿論国民の命よね?」

灯摩が言いかけると、横で美癒がそう言った。

何処かで聞いたような台詞回しに、灯摩はビクリとする。

「な!美癒お前何言ってるんだよ?!やっぱお前…。」

彼女の言葉に利羅が言いかけると、美癒は溜め息をついた。

「やっぱってことは…何よやっぱりあんた達私のこと信用してなかったのね?」

美癒に言われ、利羅は慌てて口を押さえる。

「え〜?この人たち美癒ちゃんのこと信用してくれてなかったんだぁ〜。あぁ…人間と言う物はなしてこう黒々しいものなのでせう…。」

ハイビスカスがワザとらしくよよよ…と泣く。

そんなハイビスカスは無視して、美癒は口を開いた。

「言っとくけど、私は別にあなた達を嵌めようなんて思ってなかったわよ?今言ったのは私の個人的意見よ。ね?ドルリアさん?」

美癒に言われ、ドルリアは頷いた。

「国の一大事なんだ。俺がここに残る事で解決するならそれが一番いい。…しかし、それだけで終わるわけにはいかない。」

そう言うと、ドルリアは飴を吐き紙で包んだ。

「ゼフィランサス殿。貴方のご要望どおり、私はここに残りましょう。しかし、我等にも願いがあります。」

「何だ?言ってみな。」

「そこにいる…ハイビスカス…という少女。彼女を私と交換にこちらに引き渡していただきたいのです。」

ドルリアの提案に、灯摩は眉間にしわを寄せた。

「貴方の言葉を信じていないわけではありません。ですが、こちらとしても確実に護って貰わなければならない約束です。その確証をもつためにも、貴方側の誰かをアテナに預けて欲しいのです。勿論バーサーカーの侵攻がなく、無事に終われば彼女はお返しいたします。」

「…………。」

ゼフィランサスはしばらく考え込んだ。

「ゼフィー…?」

不思議そうにハイビスカスが近付くと、ゼフィランサスは彼女の服をがっと掴んだ。

「そういう訳だハイビスカス。お前は美癒嬢の方についていけ。んでアテナの国王に、あのこと教えてやれ。」

「えぇ〜〜〜!!」

ぶーをいうハイビスカスをゼフィランサスは灯摩の方に投げる。

灯摩は反射的にハイビスカスをキャッチした。

「んじゃま、俺様はこれからこいつと大人の話をするからお前らは帰りな。ハイビスカス、言われたことはしろよ?」

そういうとゼフィランサスはパチンと指を鳴らした。

途端、灯摩達の周りに光の陣が現れる。

「にゃ!!ちょっと待ってよゼフィー!!あたしイヤよ!人間のとこに行くのなんか!大体もともとアテナにバーサーカーなんか…!!」

ハイビスカスがわめき、灯摩達が慌てているうちに、その光の陣は彼らを包み込んで消えた。

「………。さぁてと。邪魔者がいなくなったとこで…。」

「待て!灯摩くんたちを何処にやったんだ!」

ドルリアが慌てて叫ぶと、ゼフィランサスはひらひらと手を振った。

「お前らの国の城に送ってやったんだよ。優しいだろ?俺様♪」

言いながらゼフィランサスはドルリアに一歩ずつ近寄ってくる。

「―――っ来るな!」

対するドルリアはゼフィランサスからジリジリと離れる。

そんなドルリアをゼフィランサスはくすくす笑った。

「安心しろよ。俺様はお前をどうこうしようなんて考えてねェから。それよりお前、まだ気付かないのか?あのオルゴールの曲。」

「えっ。」

言われて、ドルリアはとっくに流れている事など気にしていなかったか細いオルゴールの音に耳を傾けた。

けれどその音を聞いているうちに、だんだんと彼の顔は強張ってきた。

「――――――っ!!この曲は…!じゃあ…どこか見覚えがあると思っていたここは…!」

そして何かに気付き、ドルリアは思わず呟いた。

そんな彼の呟きを聞き、ゼフィランサスは今まで被っていたローブを脱いだ。

「……あ…ああ…。」

現れたゼフィランサスの顔を見て、ドルリアは顔色を真っ青にした。

そんな彼と対照的に、ゼフィランサスは彼に優しくどこか不気味な笑顔を返した。





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