「…ーちゃん。…ぅま…ーちゃん。灯摩兄ちゃん!!起きろよ灯摩兄ちゃん!!」
「!!」
利羅に揺り起こされ、灯摩ははっと目を覚ました。
一瞬で全てを思い出し、慌ててバッと起き上がる。
彼の近くには利羅が座っており、その周りには美癒と先ほどゼフィランサスに押し付けられたハイビスカスが転がっている。
「ここは…。」
まだ痛む頭を押さえると、利羅は首を振った。
「アテナ城だよ。見覚えあるだろ?俺たちあいつにここまで戻されちゃったみたいだな。」
利羅が溜め息をつく。
「…そんな…じゃあ…ドルリアさんはあのまま…。」
呟いて、灯摩は頭を抱えた。
「……なぁ、灯摩兄ちゃん。俺たち、こんなとこでこうしてる暇ねぇんじゃねぇかな?…早くりっちゃん…リトレア王にゼフィランサスのとこであったことを伝えないと…。それに、こいつ。ハイビスカスのこともあるし。」
言いながら利羅は立ち上がる。
そんな彼の態度に、灯摩も無言で立ち上がった。
「ん…う〜ん。」
二人が立ち上がった気配に、倒れていた美癒とハイビスカスも目を覚ました。
「…はや?!ここここここここ…ここ何処?!私何処まで来ちゃったわけ?!」
美癒は静かに起き上がっただけだったが、ハイビスカスの方は一人であわあわとする。
「ちょぉっと!あんた達のリーダーの所為で、私とばっちり喰らっちゃったじゃない!!どうしてくれるのよ?!も〜も〜!!」
そのテンションのまま、ポカポカと灯摩の脚を叩く。
そんなハイビスカスの首に、灯摩は鞘に収めたままの剣をあてがった。
「――っ。」
それには流石のハイビスカスも黙った。
「いいか?俺は手荒な事はできるだけしたくない。君は一応こちらから見れば人質なんだ。」
冷静な顔で言う灯摩を見て、ハイビスカスは溜め息をついた。
「はいはい。わかりましたわよっと。じゃあさ、大人しくしてるから私のお願い聞いてくれる?この国の国王様に大っっっっ切なお話があるの。だから王様のとこに連れて行ってよ。」
立ち上がって、ハイビスカスは灯摩を見上げる。
「……分かってる。さっきゼフィランサスが言っていた話も聞きたいしな。とにかくリトレアさんのとこに行こう。」
言って、灯摩はハイビスカスの手首を持つと歩き始めた。
「あ〜もう!そんなに引っ張んないでよ!痛いでしょ〜が!」
文句を言いながらもハイビスカスは灯摩に続く。
「…ほら、美癒も行くぞ。」
利羅が黙ったままの美癒に声をかける。
しかし美癒は利羅から顔をそむけた。
「私なんか行ってどうするのよ?どうせ誰も私のこと心から信じてくれてなんていないんだから。いつ逃げ出して、聞いたこと全部シャニーナ様に話すかも分からないのよ?大体ゼフィランサスさんとの交渉は終わったんだから、私の役目は終わったはずじゃない。用済みならとっとと殺してくれて良いのに…。」
「すねてんじゃねーよ!!」
美癒のセリフの途中で利羅は怒鳴る。
「言っちゃ悪いけどな、そういう態度が皆に信用して貰えない原因なんだよ。本当に信用して欲しいなら、捻くれたこと言うのよしとけ!ほら、さっさと行くぞ!」
言いながら美癒の手を引っ張って立ち上がらせる。
彼の言葉に、美癒は眼を丸くする。
しかし進む彼に続いて歩き始めた。
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「ちょーおーちょー。ちょーおーちょー。なのはにとーまーれー。」
「菜の葉に飽いたら桜に止まれー。」
「さーくーらーのーはーなーのーはーなーかーらーはーなーへー。」
「止まれよ遊べ〜。」
『遊べよ止〜ま〜れ〜。』
夏南の自宅の風呂で、ウィンリアは夏南の娘と楽しく歌を歌っていた。
「ねぇねぇ、ウーおねーちゃん。おねーちゃんっていつまでおとまりなの?」
歌い終わると、女の子はウィンリアに問うてきた。
「ん〜。今日だけ…かな?本当はお姉ちゃんも麻和(まお)達と沢山沢山遊びたいけどね。」
ウィンリアがそう答えると麻和は悲しそうな顔をする。
「え〜。まおずぅっとおねーちゃんとあそんでたいのに〜。」
女の子はブーを言いながらウィンリアに抱きつく。
「お姉ちゃんもだよ。だってお姉ちゃん麻和のことも緒巳(おみ)のことも大好きだもん。だからまた絶対に遊びに来るよ。」
そんな麻和をウィンリアは優しく抱きしめる。
麻和は嬉しそうに笑う。
「んふふ〜vまおもウーおねーちゃんのことだ〜〜〜いすき!」
麻和がそう言ったすぐ後、パタパタと誰かが走ってくる音がしてきた。
「ウーねぇちゃん!!おとーちゃんがすぐこいっていってるぞ!!たいへんなんだって!」
頭に猫の耳がついた男の子が、ガラリと風呂場の扉を開けてそう叫んできた。
「きゃあ!おみのえっち〜!おとこのこははいってきちゃいけないんだよ?!」
麻和がそう言うが、緒巳はそれどころじゃないと言いたげに首をプルプル振った。
「ウーねぇちゃん!おしろにとうまにいちゃんたちがかえってきたんだって!!」
必死そうに叫ぶ緒巳のセリフに、ウィンリアは息を呑んだ。
そして間髪いれずに風呂から上がり、体にタオルを巻いて居間にいる夏南の元へ向かった。
「夏南お兄ちゃん!!灯摩ちゃん帰ってきたって…!!」
ウィンリアが到着すると、夏南と千早は慌てた様子で立っていた。
「ウィンリア!今秋斗義兄さんから連絡があったの!私たちこれからまたお城に行くんだけど、貴女は…。」
「私も行くに決まってるじゃない!!灯摩ちゃんやお父さんに早く会いたいもん!!」
ウィンリアが叫ぶと夏南は頷いた。
「わかった。俺車出してくるからお前は早く服着て来い!千早、麻和と緒巳も連れてくぞ二人だけにしたら危ないからな。」
走りながら言う夏南の言葉に従い、ウィンリアは服を着に戻った。
千早は麻和と緒巳にも支度するように言い、ウィンリアがまた戻ってきたところで外に飛び出した。