「着いた〜!!いざ入城〜!」
城の前に着きウィンリアが叫ぶのを灯摩が慌てておさえ、その横で秋斗は扉を開いた。
それと同時に三人を待ち構えていたのは………。
「きゃぁぁぁああ!!」
「国王!危険です!すぐにそこからお降りください!!」
天井にむかって大声で叫んでいるメイドや衛兵の山であった。
「何だ?何かあったのかな?」
灯摩が驚いて呟くと、人込みの中の一人がこちらに気付き物凄い形相で駆けて来た。
勿論彼がすがるのは秋斗である。
「あぁ秋斗様!良いところにお戻りになってくださいました!!王が…王が…!」
「落ち着け!何があったんだ?王は何処だ?!」
半泣きのその男性を秋斗はなだめながら問う。
すると男性はびくびくしながら天井を指差した。
「王があの最高地点にある鴨居に登ってしまった子猫を助けると仰って!!」
『え!?』
三人が見上げると、指差された天井のステンドグラスになっている部分に人影が見えた。
その人物こそ灯摩が漬物を届けに来た、ウィンリアの父ドルリアの弟の、そして秋斗が付き従っている、リトレア王その人だった。
リトレアは天井の端の細い足場でぶるぶる震える子猫に向かって、バランスをとりながらゆっくり歩いている。
「馬鹿リトレア!!降りて来い!!」
秋斗が叫ぶと、こちらに気付いたリトレアが見下ろしてきた。
そして嬉しそうに両手を振る。
「秋斗〜〜!おかえり〜!!待ってて!あの子助けてから降りるから!!」
そう言って猫を指差すが、彼自体地上から12mはある高さの細い足場に立っていて危険な状況である。
本人以外は、彼が無駄にダイナミックに動いた所為で落ちるのではないかと益々体から血の気が失せていた。
何処をどうやって登ったのか、助けようにも道が見付からない。
秋斗も灯摩もウィンリアも、他の城の者の様に冷や冷やしながら見守る以外できなかった。
そうこうしている間に、やっとリトレアは子猫の元に辿り着いた。
この子猫はリトレアが飼っている猫の中の一匹であった為、彼の顔を見るなりぴょんと飛びついてきた。
「よかった〜ミーナ〜。もうこんなとこ登っちゃ駄目だよ?」
リトレアは顔一杯に安堵の色を見せ、すっくと立ち上がった。
―――その瞬間。安心からつい自分のいる場所を忘れていたリトレアの体がゆっくり傾いた。
「あ、そうだ。ここ天じょ…。」
…ズルリ。
そう呟いたのと同時に、完全に彼の体が足場から離れた。
「きゃああああああ!!!」
途端に響き渡るメイド達の悲鳴。
「駄目だ!!リトレアさん!!」
灯摩も叫び、ウィンリアに至っては目を両手で覆っている。
その瞬間に秋斗が駆けた。
ブツブツと何かの呪文を唱え、渾身の力を込めて高く飛び上がる。
すると秋斗の体の周りに強い風が起こり、彼の体を持ち上げた。
秋斗を始めとしたエルフ族の得意としている天術である。
皆がその姿に目を奪われている間に、秋斗は落ちるリトレアを抱きとめフワリと地に降り立った。
そして抱きかかえられていたリトレアが無事に地に足をつけると、そこに集まっていた灯摩とウィンリア以外の者達は一斉にその場に崩れ落ちた。
安心と驚きの所為で全員腰が抜けてしまったのである。
「あ〜びっくりした…;ミーナ、大丈夫?」
リトレアは自身よりも子猫に気遣いの言葉をかける。
そんなリトレアに、秋斗はパコンと一発ゲンコツを食らわした。
「いてっ!な・何するんだよ秋斗!俺王様なんだぞ?!」
「俺はこの34年間の生涯の中で、12mの天井の所にいるのにはしゃいで手ぇ振って、あまつさえ油断して真っ逆さまに落ちて死にかけるような国王は見たことないぞ。」
秋斗がすらりと返す。
「う……。…だ、だからって叩くことないだろ?!この頭の中の脳みそには、この国のすべてが託されてるんだから!」
「馬鹿かお前。そんなに重大な脳みそに、12mから落ちたら死ぬって考える力はないのか?大体そのくらいの猫なら、お前の可愛いゆんゆんに助けにいかせればいいだろが。」
ゆんゆんとはリトレアが昔から飼っているペットで、現在はリトレアより大きく成長しているシュぺラーノという種族の動物である。
「うぅぅうう……。」
余りにもスラスラと返されて、リトレアは恨めしそうに唸る。
しかし、二人の話に灯摩が割って入った。
「まあまあまあ…。お二人共その辺に…。」
灯摩が顔を出すと、リトレアの表情が明るくなった。
「灯摩くん!!久しぶりだね〜!!また背、のびた?」
切り替えが早いと言うかなんというか、今まで唸っていたのが嘘のような満面の笑みで言う。
流石に秋斗も頭を抱えて、何も言わなくなった。
「そんなこと言ってる場合?!リトレアおじさん!」
そんな秋斗の代わりにウィンリアがリトレアに噛み付いた。 目に涙をためてリトレアに抱きつく。
「もう…すごい…心配…したんだからぁ…!!」
ウィンリアにとってリトレアは一番大好きなおじさんなのであった。
リトレアも姪にこれほど泣かれては、困り顔になってしまう。
「ごめんね…ウィンリアちゃん。ほら、もう大丈夫だから。泣かないで。」
いいこいいこと頭を撫でてやると、ウィンリアはやっと顔に安堵の色を浮かべ、にこりと笑った。
その間に秋斗が腰が抜けている者達に促したのか、周りにはもう人がいなくなっていた。
「さて、一応落ち着いたところで話すとするか。リトレア、場所を移そう。」
秋斗の言葉にリトレアは一度軽く頷いた。
「灯摩君、ウィンリアちゃん。俺の部屋にいこう。お茶煎れるよv…秋斗が。」
「俺かよ!」
見事な突っ込みに、灯摩とウィンリアはお腹の底から笑った。
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TC第一話第三項目です。 童顔な王様登場!
31歳で口調が「だよ」とか言う男性なんていないなんて突っ込みはヤボッてもんですよ☆
次の四項目で一話が終わりますが、結構尻切れとんぼなので二話の一項目と一緒にUPしたいと思います。