ブァンッと物凄い勢いで何かが風を切り裂く音が響いた。

それに続くようにバタバタと大きな物が沢山倒れていく音が響く。

「…弱い…。」

その中でまだ声変わりしていない少年の声がした。

喜癒だ。

喜癒は以前灯摩達とバーサーカー狩りに来た森に、一人でやってきていた。

彼の周りには沢山のバーサーカーの生命チップが転がっている。

彼のそのセリフを聞いて怒ったのか否か、周りにいたバーサーカーは一斉に彼に飛び掛っていく。

「……遅い。」

そんなバーサーカー達に向かって、喜癒は物凄い速さで十字架を振った。

バーサーカー達はたちまちなぎ払われ、生命チップにその姿を変えていく。

それから2〜3度同じように十字架を振ると、とうとう彼の周りにいたバーサーカー達は全ていなくなっていた。

「…ふぅ。雑魚は群れるから嫌ですね。」

ぐしゃっと生命チップを踏み潰して喜癒は言った。

「バーサーカーの大群が来る前に鍛えておかないといけないのに。こんなに弱い奴ばかりじゃ意味がないじゃないですか。」

ブツブツと愚痴を零しながら、喜癒は歩き始めた。

しかしすぐに歩を止める。

「―――っ!?うっ…。」

突然、彼の頭に頭痛が走ったのだ。

そのたまらない痛みに、喜癒はその場に膝をつく。

「な…何だこれ…この…痛みは…。」

その痛みに連動するように、傍らに倒れた十字架が光り始める。

「……?シャレム…?」

彼が呟くと、十字架は目の眩むような激しい光を放った。

「―――なっっ!!」

その光は一瞬で喜癒を包み込んだ。

そして彼を中心にパァンと大きな音をたてて何かが弾けた。

「…………………。…時はきた。」

光の中で、誰かが呟いた。

それを合図にか、光はパッとやむ。

今まで喜癒がいた場所に、喜癒の代わりに黒髪の青年が立っていた。

青年の首元には、喜癒と同じ十字架が光っている。

背中には真っ黒い六枚の翼。

「行くぞシャレム。私の目指す世界のために。」

青年はにやりと笑い、空へと飛び上がった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 


「あ〜、そこ右右!灯摩兄ちゃん一緒に行った道だろ?!覚えてねぇのかよ?!」

車の助手席で利羅がわめく。

「う、うるさいな!ここで回って引き返せばいい話だろ!」

それに対抗するように灯摩もハンドルをきりながらわめく。

城を後にした三人は夏南の車に乗ってゼフィランサスのいるはずである廃墟に向かっていた。

ただし車は無断使用である。

ウィンリアがたまたま夏南に車の鍵を預けられていたことと、ペーパードライバーではあるが灯摩も免許を持っていたことが生んだ良策であった。

騒ぐ二人をよそに、後部座席のウィンリアは深刻な顔で俯いていた。

「!」

と、灯摩が何かに気付き急ブレーキをかけた。

「うおあっ!!」

突然のことに利羅は体のバランスを崩し、座席の背もたれに強かに頭を打ちつける。

「灯摩ちゃん、どうしたの?」

流石にウィンリアも身を乗り出して問う。

「ほら、あれ。ユーリンじゃないか?」

灯摩が指差す先には、以前着ていた学校の制服姿に、鉈入りの長い袋を持って歩いているユーリンがいた。

「本当だ…。って!今はそれどころじゃねぇだろ?!ユーリンには悪いけど!」

頭を摩りながら利羅が言うが、ユーリンの方もこちらに気付いたようで利羅が言い終えたころには車の隣にきていた。

「どうしたんですか?皆さん。珍しく車に乗って…ドライブですか?」

眼鏡をかけているためやはり口調は丁寧だった。

先日、灯摩たちがゼフィランサスに交渉に行くことになった後に別れてからはユーリンはいつもと変わらない生活ペースで過ごしていたようである。

「それが、俺たちはこれからゼフィ…んぐっ。」

「そうなの!ほら、この道のむこ〜〜〜ぉに素敵なお店が出来たって言うから行こうとおもって。あ、ごめんね予約してる時間に間に合わなくなっちゃうからもう行くね。ほら、灯摩ちゃん。」

後ろから利羅の口を塞ぎぺらぺらと言うとウィンリアは灯摩に車を出すように指示した。

「え、あ、あぁ。」

「そうなんですか〜。楽しんできてくださいね!私はこれから家に帰ってご飯作らないと…。では。」

「うん、バイバイ!!」

挨拶もそこそこに車は出発し、ユーリンと別れる。

「………やっぱり怪しい…ですよね?」

走り去る車を見ながら、ユーリンは呟いた。

実は彼女は灯摩がいた時点で三人のことを怪しいと思っていた。

ウィンリアはユーリンまで巻き込んではいけないと焦ったあまり、ユーリンもゼフィランサスへの交渉に灯摩が参加したことを知っているということを忘れていたのだった。

灯摩が無事で帰ってきているということは、交渉が成功したと考えるのがあたり前である。

しかしウィンリアは嬉しそうに報告するでもなく、ユーリンを避けるような行動をとった。

彼女でなくても、怪しい・おかしいと思うのは当然であった。

それに…。

「三人とも知らないみたいですね…。国全体に避難勧告が出てること。本当、怪しい所だらけです…。」

見上げる電光掲示板には、近くの大型建物に避難を促すメッセージが流れていた。

「もしかしたら…私みたいな一般市民が踏み込めるような簡単なことでもないかもしれませんけど、お城で…隊長さんにお話を聞いてみましょうか…。交渉の結果が…実際どうなったのかも気になりますし…。」

そう呟いて、ユーリンは急ぎ足で城に向かった。




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