「いい加減にしろよ美癒!!」

ナイフの柄の方を美癒に向け、利羅は投げた。

しかし美癒はトンファーをクルクルと回転させて、そのナイフを払い除けた。

「甘いわよ、利羅。そんな投げ方じゃ勢いなんかつかないに決まってるでしょ?もっと殺す気できなさいよ。刃を向けて投げなさいよ。」

不気味に微笑む美癒の台詞に、利羅はチッと舌打ちをした。

美癒は何もかも見透かしていた。

利羅の故郷である葛城の里は隠密…つまり忍者としての訓練をするため、基本的には武器は投げる物が主流の遠距離向きである。

つまり、戦う相手にとって遠距離になれる足場がある方が戦い易い。

しかし彼等が今いるのは周りに木も壁もない草しか生えていない草原である。

遠く離れてナイフを投げたとしても素早い美癒には避けられるし、近付こうものなら接近戦向きの武器を持つ美癒の思う壺である。

その上美癒を殺すことなど望んでいない利羅は本気を出せずにいた。

暫くの沈黙が二人の間に流れたが、突然美癒が溜め息をついた。

「ねぇ、やめない?私から仕組んだ『喧嘩』だけどさ、郷里の友がちっちゃなことで争うなんて。それよりも楽しい事しましょうよ?」

何…。と利羅が返すと同時に、美癒は翼を広げて利羅に急接近してきた。

「!!」

そして次の瞬間には、美癒は利羅を地面に組み敷く体勢になっていた。

「美癒…お前何…の…つもりだ…?」

首を二本のトンファーで押さえつけられ、言葉が上手く出せない。

彼の台詞を聞き、美癒はにんまりと微笑んだ。

「楽しい事しましょって言ったでしょ?貴方は男、私は女。どちらも年頃15歳♪どうせ貴方さくらんぼなんでしょ?私がぜぇ〜んぶリードしてあ・げ・る☆」

そう言い、利羅に口付けを迫ってくる。

「ば…!!やめ……!!」

必死にもがくが全て無意味に終わってしまう。

利羅にはわかっていた。

美癒は『そんなこと』をするつもりはないと。

彼女はどさくさに紛れて、利羅の舌を噛んで殺すつもりなのだ。

利羅は隠密として育った勘から、美癒のその意思に気付いていた。

の彼に出来ることは、何が何でも歯を食い縛って耐える事だけだった。

重ねられる唇はいやらしく彼の上唇に吸い付いた。

本来なら気持ちよいことなのだろうが、美癒の裏を知っている為逆に気味が悪い。

そうしている内にも、美癒からは殺気がガンガンと感じられてきた。

頑張って閉じていた歯をこじ開けられ、最早絶体絶命の状況になる。

これで終わるのか…こんな事なら逆らわなければ良かった…。と彼の中で少しの後悔がおき、たまらずぎゅっと目を閉じた。

その時、今まで力強く押さえられていた美癒のトンファーから力が抜けていった。

「……?」

何が起きたのかと目を開けると、今まで積極的だった美癒の身体がガクンと自分に覆い被さってきた。

その身体からはすっかり力が抜けている。

「ったく…。馬鹿ガキが…。」

何が起こったのか分からず美癒を支えたまま起き上がると、目の前には秋斗がしゃがんでいた。

「………おっさん…何でここに……デッ!!」

「おっさんじゃねぇっての!!あ・き・と・さ・ん!!!」

またも本人の前では禁句であるおっさん発言をした利羅の額をコツンと小突いて、秋斗は溜め息をついた。

「美癒がお前をつれて城から『逃げた』って聞いたから飛んできてみれば…、近頃のガキは何でもマセてるんだな。」

呆れたように言って、頭をおさえる。

「おっさ…じゃなくて…秋斗さん。もしかして助けてくれたのは秋斗さんなのか?」

「他に誰がいるんだ。分かりきったことを聞くんじゃない。」

「う゜……。」

すっぱり返されて、利羅はバツの悪そうな顔をした。

「……あと先に言っとくが、美癒は気を失ってるだけだ。殺したりはしてないから安心しろ。」

「あ、そうなんだ…。」

ふと自分に寄りかかるような状態で気を失っている美癒の首の後ろを見ると、少しだけ焦げたような痕があった。

秋斗が天術を使うことに長けている事をアテナ城にいた間に聞いていた利羅は、彼が美癒に軽く電気ショックを与えて気絶させたのだと容易に察する事が出来た。

「……秋斗さん、これからどうするんだ?やっぱ美癒をアテナ城に連れて帰るのか?」

「あぁ。それが俺の目的だからな。この娘には聞くことが沢山あるし、リトレアからの指示だ。……さて、お前はどうする?」

立ち上がって利羅を見下ろしながら秋斗が問う。

それを聞いて、利羅は美癒を抱えたまま立ち上がった。

「一緒に行くに決まってんだろ?!…っそうか!!秋斗さん知らねぇんだよな!!大変なんだって、バーサーカーの大群がアテナ王国に向かって侵攻中らしいんだよ!早くりっちゃんに知らせなきゃやべーだろ?」

「何だって…?」

利羅が叫んだ言葉に、秋斗は目を見開いた。

「………早くしろ利羅!!車乗れ!!」

50m先程に置いてある車を指差し、秋斗は走り出す。

「わかった!!」

利羅は美癒を背中に背負い、秋斗に続いて走り出した。






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