「う〜ん!いい陽気ですね〜。さぁ!今日は待ちに待った国内の散策の日!誰かの邪魔にならないように気をつけなきゃ!」
灯摩とウィンリアがリトレアからの依頼を受けて数日経ったある日、アテナ王国領内に立てられている大きな教会の入り口付近で、胸元に十字架を付けた少年がぐっと背伸びをしていた。
「よし!」
伸びを終えると、少年はふと教会の屋根に取り付けられている巨大な十字架に向かい、ひざまずいた。
「崇高なる神レキニア様。本日も貴方の親愛なる僕(しもべ)である喜癒を御守りください。」
この少年こそ、新たな神子となった少年・喜癒(きゆ)であった。
喜癒がそうやって祈りを捧げている所に、丁度灯摩とウィンリアが到着した。
二人共いつもよりは軽装であるが、灯摩は懐にしっかりと護身用の短刀を忍ばせていた。
「おはよう!喜癒くん!私ウィンリア・バーンズ!今日一日宜しくね☆」
「俺は柊灯摩。名前で呼んでくれていいからな。」
フレンドリーな二人の態度に、喜癒は立ち上がり笑顔を見せる。
「はい!お二人のお話は国王陛下から伺っています。今日は一日宜しくお願いします!」
ペコリとお辞儀をする喜癒につられて、灯摩とウィンリアも深々とお辞儀をした。
三人は喜癒の要望で繁華街へと足を伸ばしていた。
休日ともあって、人の数はひとしおである。
「わぁ!灯摩さん、ウィンリアさん!あれって何ですか?」
ウキウキした顔で指差すのは、屋店で売られているたこ焼きであった。
「あれかい?あれはたこ焼きって言う食べ物だよ。」
「たこ焼き…。すごいですね!!たこって焼いたらあんなにふわふわで丸くなるんですね!」
無垢な笑顔で言い放つ。
「え?あ、そうじゃなくてね?たこの切り身(?)に小麦粉の液体をつけて焼いてるのよ。」
「そうなんですか!天ぷらみたいですね!」
ウィンリアの下手な説明に、喜癒は間違った知識を手に入れてしまった。
「う〜ん…。天ぷらっていうか…。そうだ!ちょっと小腹もすいたし、食べてみるかい?」
見かねた灯摩が提案すると、喜癒もウィンリアもパァッと明るい顔になった。
「はい!ありがとうございます!」
そう言ってペコリとお辞儀。
灯摩はその店に行き、9個入りを一パック買ってきた。
「じゃあ、まず喜癒くん。どうぞ♪」
つまようじを刺したたこ焼きを一つ喜癒に薦めてみる。
「いただきます!………!!!」
あつあつを一つ口に放りこみ、はふはふとしてからコクンと飲み込む。
「……!」
その直後、喜癒は目を潤ませふるふると震え出した。
「え?!喜癒くん?!口に合わなかった!?」
ウィンリアが慌ててカバンにいれていたペットボトルのお茶を差し出す。
「…美味しいです!!凄く美味しいです!!世界にはこんなに美味しい食べ物があるんですね!!感動しました!こんな美味しい食べ物を発明してしまうなんて、人の力は素晴らしいです!!」
ぽろぽろと大粒の(感動の)涙を流し、もう一つ口に入れて最初よりも長くはふはふして味を楽しみ始める。
「たこ焼きでそこまで感動するなんて…;」
灯摩は喜癒の箱入り神子ぶりにキョトンとしてしまう。
「喜癒くん。そんなに気に入ったなら、私の分一つあげるよ。あと二つ食べれるよ♪」
「え!?いいんですか?!」
「俺のも一つあげるよ。喜癒くん食べな。」
「えええ!?ありがとうございます!嬉しいです!」
二人はたこ焼きでここまでの反応をする喜癒が可愛くて仕方なくなってきた。
「うぅ。レキニア様。この方たちにも貴方様の慈愛をお与えください。この方達はとても心の清い方たちです!」
終いには神に祈りまで捧げ始める。
「ははは。俺たちのことレキニア様に報告してくれてありがとうな。」
可笑しくなって灯摩は喜癒の頭をポンポン撫でた。
ウィンリアも笑う。
「はい!善行をしている人を見つけたら、必ずレキニア様にご報告するようにしてるんです!お父さんからずっと言われ続けてきたので。」
お父さんとは教会の牧師のことである。
喜癒は赤ん坊のころから牧師に育てられたので、牧師のことを本当の父親だと思っている。
自分が孤児であったことも知らないし、周りも牧師に口止めされていたので彼に教えてはいないのである。
勿論灯摩とウィンリアも、リトレアからその話を聞かされていたので絶対に言わないようにしていた。
「そっかぁ〜。喜癒くんのお父さん、立派な牧師さんだもんね〜。」
「はい!お父さんは僕の自慢です!僕はお父さんのこと大好きです!」
満面の笑みをみせる喜癒。
そんな喜癒を見ながら、幼い頃父親を亡くした灯摩は少々苦笑いを浮かべた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
二話第一節です。
二話は一話に比べると短いので一節も短めです。
書きながらたこ焼きが食べたくてたまらなくなりました…。