翌日の昼。

王都内の集会広場に国中の人々が集まっていた。

勿論目的は一つ。

新しく神子になる少年をその目で見るためだ。

灯摩は喜癒と共に設置された舞台の裏で場の様子を窺っていた。

「喜癒くん。具合はどうだい?」

顔色の冴えない喜癒に、灯摩は優しく話し掛ける。

「はい…。朝よりは落ち着いてます。」

喜癒は申し訳なさそうに答える。

あの後灯摩に揺り起こされた喜癒は、何も覚えていなかった。

そしてリトレアを襲ったあの降魔の仲間らしき者も12時を過ぎてからは現れず、以後の夜は静かだった。

ただウィンリアはまだ目覚めておらず、メイドの人々に見守られて城のベッドに寝かされている。

「…でも…何だか変なんです。ずっと頭の中に言葉が響いてて…。」

俯きながら喜癒が訴える。

「言葉?どんな?」

「色んな人の声で…。出て行け、来るな、消えろって…。変ですよね…僕…。」

辛そうにぎゅっと拳を握る。

灯摩はそんな喜癒の頭を優しく撫でてやった。

「大丈夫。きっと緊張してるから、心が不安になってるんだよ。俺がついてるから頑張れ。」

彼の言葉に、喜癒は安心した様に微笑んだ。




暫くして、遂にお披露目会が開始された。

鳴り響くファンファーレ。

湧き上がる観衆の熱狂。

まず出て来たのは国王のリトレアと側近の秋斗。

リトレアは舞台の中心部に立ち、すっと深く礼をした。

それを期に秋斗が舞台の端に立ち、観衆を一通り見渡した。

見終わると秋斗はリトレアの方を向いて一礼し、閉じていた口を開いた。

「我等が国アテナ王国の民の方々。この度は神聖なる子供、ルシフェル教会の新しき神子に選ばれた少年を皆にご覧頂く重大な式典への出席、感謝する。」

秋斗は観衆に深々と礼をした。

観衆の民達は、慌てて秋斗に礼を返す。

秋斗が顔をあげると、今度はリトレアが前に出た。

それを見た観衆の者たちは秋斗の時よりも深くリトレアに礼をする。

「親愛なる民の皆さん。本日はご参加ありがとうございます。ご存知の通り、本日のお披露目会はこれからの皆さんの信教生活において重要な“神子”になる新たな少年のお披露目会です。

彼の存在は特に、深くレキニア神を崇めていらっしゃる信者の方、またはそうではない方にとっても重要なものになります。

皆さんにはこのお披露目会で、彼自身に新たな神子としての任が任されたという自覚と自信を持たせてあげるための見届け人になって頂きたいと思います。これは私の心からの願いです。」

リトレアがそう訴えると、観衆は割れんばかりの拍手に覆われた。

暫くの間拍手は続いたが、少しの間を空けて秋斗が右手を斜め下に振り下ろすと、その拍手は一瞬で鳴り止んだ。

その代わりに観衆はその目を舞台の奥に現れた人影に注ぐ。

「喜癒くん。前に出て。」

リトレアが小声で指図すると、喜癒は多少顔を赤らめながら前に歩いてきた。

その場の全員が彼に注目する。

灯摩は皆が喜癒に目を向けている間に、舞台上の秋斗のもとに駆け寄る。

そんな灯摩に秋斗はぼそりと小声で言った。

「灯摩、ちゃんと見ていろよ。いつ昨日の奴の仲間が来るか知れんからな。」

秋斗は昨夜の話をリトレアから聞いていた様である。

灯摩は何も言わずに頷き、観衆に一通り目を通してから喜癒の方を見た。

やはり緊張しているようで、俯いて拳をぎゅっと握って立っている。

その手はガタガタ震えていた。

「喜癒くん。挨拶して。」

リトレアに促され、喜癒ははっと我に返ったように俯いていた顔を起こした。

「あ、その…。えっと…。」

本番前に挨拶の練習をしていた喜癒だが、動揺してしまっている為言葉が出てこない。

灯摩は心の中で喜癒を必死に応援していた。

喜癒は暫くおどおどしていたが、観衆が少しざわめき始めると決心した様に顔を引き締め口を開いた。

「あ…新しく神子に選ばれました、レキニア教ルシフェル教会の牧師の息子の聖宮 喜癒(ひじりみや きゆ)と申します。

…僕のような未熟者がこの度神聖なる神子に選ばれ、心より感謝していると同時に神子という大役のプレッシャーに動揺しています。

これから神子として皆さんと接していくことでより多くの教養を身に付け、一日でも早く皆さんに頼られるような教徒になれるように努力しようと思っています。

不束者(ふつつかもの)ですが、今後ともどうぞ宜しくお願いします!」


言い終わると、彼はバッと頭を下げて目をぎゅっと閉じた。
一瞬その場は無音になる。

観衆の誰も何も言わず、秋斗やリトレアもきょとんとしている。

そんな中、誰かが喜癒に向けて最初に拍手を送った。

舞台上で喜癒を見ていた灯摩だった。

それがきっかけとなって一人二人と拍手の音が付加されていき、最後にはリトレアや秋斗を含めた全員が喜癒に惜しみない拍手を送っていた。

拍手に包まれた喜癒は、ゆっくりと折っていた上半身を起こす。

そしてその温かい拍手の中で、今まで引きつっていた彼の顔が柔らかな笑顔へと変わっていったのだった。

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

2話がやっとこ終わりです。

喜癒くんが神子として華々しくデビューいたしました。

国にとっては大事件なので、観衆はめっさいると想像してくださいです。

そんな大勢の前で緊張しない方が凄いと思います、個人的には;

三話からバトルが増えていきますですよ。


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