「起きてる?ドルリアお兄さん。」
「…あぁ、ハイビィちゃんかい?起きているよ。」
「あのね?ゼフィーが呼んでるみたいだから、一緒に来て?」
「アナ…いや、ゼフィランサスが?…ってことは…そうか…バーサーカーを…。」
「うん。やっつけちゃうみたい。もうアテナの軍も動いてるよ。」
「……君は…それでいいのかい?君だって…バーサーカーだろう?」
「…………。」
「ハイビィちゃん?」
「私は…ゼフィーとジキタリスの味方だから。だから…いいの。」
「………。」
「ねぇ、ドルリアお兄さん。」
「?」
「ずぅっと気になってたんだけどドルリアお兄さんとゼフィーって、もしかして知り合いだったの?顔もそっくりだし。」
「…………。」
「言えない…か。そだよね。ごめんなさい。」
「いや…こっちこそごめん。」
「いいよ。ゼフィーも教えてくれないんだもん。」
「……。」
「…さぁ、行こう?」
「……あぁ。わかった。」
暗闇の中で鍵を開ける音が響きながら、そんな会話があった。
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ザッザッザッ…と兵たちの歩く音が響く。
秋斗の編制した討伐班は、本格的にバーサーカーの待機する草原に向けて進行していた。
先導は秋斗、その列の中央付近には馬に乗ったクラウドと灯摩たち、最後尾にはゼフィランサスが続いている。
兵の中からは一切の言葉が無かった。
「…………。」
その空気に耐えられないウィンリアは口をもごもごさせていた。
「……あの…リトレアおじさん?」
馬上のクラウドに向けて小声で声をかける。
「?何?」
ウィンリアを見下ろし、クラウドは返事をした。
「リトレアおじさんは…お城に残ってたほうが良かったんじゃないの?」
ウィンリアが言うと、クラウドはふっと笑った。
「国のために戦うのは、主導者の務めだよ。それに、国の方は冬姉様にまかせてるしね。」
ウィンリアはきょとんとする。
「…お母さんって…塾の先生だと思ってたけど…。国軍所属だったんだね…。」
「うん。もう随分前からね。位は正直秋斗よりも上だよ。」
「…そっか…。」
返事をするとウィンリアは俯いた。
「(私…お母さんのことあんまり分かってなかったんだなぁ…。)」
そう心の中で呟き、また視線を前に戻した。
――――――――――――――――――――――――――――――
ウィンリアのやや前を歩きながら、灯摩は自分の右を歩く人物に目をやった。
そこにいるのは夏南だ。
「なぁ夏南。何でお前も討伐部隊にいるんだよ?」
問い掛けると、夏南はふっと笑って眼鏡をくいと上げた。
「俺は戦わねぇよ。お前等が戦ってる後ろの方で見守りつつ、怪我人がいたら素早く手当て。重要な救護班班長様だぞ?」
その横から千早もひょこっと顔を出す。
「一応軍登録外科医としては、お呼びが掛かれば行かなきゃだものね。」
そんな二人の態度に、灯摩は頭に手を当てる。
「あのなぁ?なんでそんな暢気に構えてられるんだよ?断ることだって出来たんだぞ。…二人には…子供だっているんだし…。」
「バァカ。子供がいるのは俺たちだけじゃないだろ。それにその子供たちを守るためにこそ、こうやって赴いてるんだ。あいつらにはそう聞かせてきた。」
「………。」
夏南は沈黙する灯摩の背中をバシッと叩く。
「うっぐ;」
「しけた顔するなよ。バーサーカーくらいボコボコにのしてやるんだろ?」
ニッと笑う夏南に、つられて灯摩も微笑み頷いた。
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「よぉ、来たな。」
最後尾を少し距離をおいて歩いていたゼフィランサスは、ハイビィの気配に気付き振り向いた。
「うん。連れてきたよ。すぐにこっちに来れるようにするから、同時に消えてね?」
「あぁ、わかってる。じゃあ3つ数えてチェンジな?」
言われハイビィはビシッとVサインを返す。
「いいな?1,2、」
「3!!」
二人が数え終わると一瞬ゼフィランサスの姿が揺らぎすぐにドルリアへと変わった。
「はいv到着したよ!ドルリアお兄さん♪」
言ってハイビィはゼフィランサスにする感覚でドルリアに抱きつく。
対してドルリアはまだポカンとしている。
「?どうしたの?」
「……あ、いや…。何でもないよ。…ゼフィランサスは何処に?」
問われハイビィは人差し指を顎に当て、ん〜と空を見上げた。
「何かねぇ。こっちの人たちは一人も死なさないようにしてくるぜ〜とは言ってたよ。」
「そうか…。」
ポツリといい、ドルリアは視線を前に向ける。
そんな様子のドルリアを見上げ、ハイビィは口を開いた。
「辛いなら帰…。」
その時
最前列の秋斗が止まった。
「!!」
「秋斗さん?」
「まさか…。」
それぞれが察し、声を出す。
灯摩たちは走って秋斗の元へ向かった。
「秋斗さん!!……っっな!!」
そして灯摩が秋斗に話し掛けようとした時、灯摩の眼には驚くべきものが飛び込んできた。
自分達のおよそ500m先に見える黒い山。
その中からはけたたましい程の生き物の鳴き声が聞こえてくる。
「どうやら、奴等のようだな。」
秋斗が呟くように言う。
そんな彼の横に、後ろから瞬間移動でハイビィが姿を出した。
「そうだよ。あれが…ラナのバーサーカー部隊…。数は多分…100万くらいかな。」
「ひゃ…100万!?」
ウィンリアやユーリンは顔を見合わせ青ざめる。
「隊長さん。ほら、あそこに…真ん中の方にさ、人みたいなのがいるでしょ?」
ハイビィに指差され、秋斗は目を細めて先を見た。
確かにそこには、獣の形をしたバーサーカーの中に一人だけ、人の形をした誰かが立っていた。
「あれか…。まさか。」
「そうだよ。あれがあのバーサーカー全部を操ってアテナを潰そうとしてる、ラナ。高位バーサーカー第2番…ラナンキュラス。」
いつになく厳しい顔でハイビィはラナの名を呼んだ。
「ラナン…キュラス…。」
無意識に秋斗は復唱する。
そして眉間にしわを寄せた。
「…あいつ…こっちに歩いてくるぞ。」
その時、利羅が言った。
利羅の眼には確かに写った。
ラナは少しずつこちらへと進んで来ていたのだ。
「一体何のつもりだ…あいつ。」
利羅が呟くと、ふいにその横をクラウドの乗った馬が走った。
『!!!リトレアさん!!!』
突然の彼の行動に全員が驚き、止める前にただ名を叫んだ。
クラウドはラナに向かい、一直線に走っていく。
それに気付いたラナはふと歩を止めた。
距離をおいてクラウドも馬を止める。
二人の間の距離はおよそ30m。
アテナ側には緊張が流れる。
クラウドはラナンキュラスの姿を見た。
どうやら女性のようで、ミニスカートにベスト頭にはテンガロンハットを被った…まるでカウガールの様な姿である。
「…私はアテナ王国国王、リトレアだ。……お前が…ラナンキュラスだな。」
クラウドは威圧を込めて問う。
言われ、ラナはふふっと笑いすっと一礼して見せた。
「お察しの通りですわ。私は高位バーサーカー・ラナンキュラス。本日は我が主からの命により、アテナを潰しに参りました。許可を頂けますか?『リトレア王様』」
くっくと笑いながら言う。
そんなラナをクラウドは黙って睨んだ。
「嫌だと言ったら?」
腰から銃を抜き、ラナに向ける。
「………もとより、貴方がたに……。」
ラナはニヤリと笑い、腰に手を持っていく。
「!!!リトレア様!!逃げて!!」
ハイビィが思わず叫ぶ。
「…拒否権なんか………………ねぇんだよぉぉぉあああ!!!」
それと同時にラナは豹変し、銃を構えてクラウドに向けて放った。
「!!!」
思わずクラウドは手綱を引く。
ラナの放った弾丸は馬の胸に命中した。
「ヒィィィィイイイインン!!!」
痛みに馬は仰け反る。
「チッ…!!」
クラウドは馬から飛び降り、着地して銃を構える。
「おっせーんだよ!!バァカ!!」
ラナは容赦なくクラウドに弾丸を放つ。
「ダメェェェエエ!!」
すかさずハイビィが飛び出し、リボンを振るって弾丸を払い除ける。
そしてスタッとクラウドとラナの間に立った。
「ダメだよラナ!!侵攻はしないはずでしょ?!」
「うっせぇバァカ!!お前が知らないだけだよ!!グラジオラス様はアテナを潰す気満々さぁ!とっとと退きな!!」
しかしハイビィは何も言わず動かない。
「各員指令に続け!!討伐を開始する!!!」
ラナがクラウドを攻撃したことをキッカケに、秋斗が兵士たちに叫ぶ。
『おぉぉぉおお!!!』
それに応え、灯摩たちを初めとした討伐部隊の兵士たちは武器を構え、バーサーカー達に向かって走り出す。
ラナはそんな兵士たちを見て、ニィッと笑った。
「ギャァハハハハハハ!!!来いや来いやぁ!!全員残らずぶっ殺してやらぁぁあ!!」
そう言い、天に向かって銃を放った次の瞬間、バーサーカーの大群もこちらに向かって走り出した。
アテナ軍のバーサーカー討伐部隊対バーサーカー100万体の強大な戦いの幕が切って降ろされた瞬間だった。