「お父さん!!」

灯摩達の乗る車は、何とか無事にゼフィランサスのいる廃墟に辿り着いていた。

ウィンリアは車から一番に降り、灯摩たちが降りるよりも早く廃墟の中へと走り出した。

「コラ!ウィンリア!慌てるんじゃない、待て!」

そんな彼女に続いて、灯摩と利羅も廃墟の中へと入っていった。


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三人は長く薄暗い廃墟内の廊下を慎重に歩いていく。

廃墟の中の廊下は相変わらずバーサーカーがうようよしていた。

しかし彼等は三人が歩いているのを遠巻きから見るだけで、こちらに殺気すら向けては来ない。

それが逆に不気味だった。

「…んだよ。あいつら…。本当にバーサーカーか…?」

たまらずに利羅が呟く。

「しっ。静かにしてろ。俺たちを油断させるつもりかもしれないだろう。気だけは抜くなよ?」

そんな利羅に灯摩が注意を促した。

言われ利羅はへいへいと生返事を返す。

そうしていると、突然バーサーカー達に動きが現れた。

まるで何かから逃げるように、その場から次々と逃げていったのだ。

『?!』

三人はそんなバーサーカーに驚き、息を呑む。

すると、廊下の向こうの方から誰かが歩いてくる音が響いてきた。

「………!!ゼフィランサスか!?」

一度感じたことのある気配に、灯摩は剣に手をやる。

足音は途中までゆっくりだったが、何かに気付いたように早足になってこちらへ近付いてくる。

廊下は薄暗いため、向こうが近付いてきているにもかかわらず相手の顔は見えない。

ふと、足音が止まった。

「……灯摩くんかい?」

暗闇の中から、優しい男性の声が響いた。

そして次の瞬間、声のした方がパッと明るくなって灯摩たちには見慣れた顔が現れた。

人質として残っていたドルリアである。

彼は片手に懐中電灯を持ち、キョトンとした顔で立っている。

「!!……お父さん!!」

その顔と声を確認して、ウィンリアは思い切りドルリアに抱きついた。

そんな彼女をドルリアも優しく抱きとめる。

「ウィンリア…。そうか、皆で迎えに来てくれたんだな。」

微笑むドルリアだったが、ウィンリアはそんな父のある異常を見つけた。

左目に眼帯をしていたのだ。

「お父さん?どうしたのその眼帯!!まさかゼフィランサスに酷いことされたの!?」

ドルリアの服を掴んだまま問う。

しかし不安そうなウィンリアに対して、ドルリアはのほほんな笑顔を返した。

「あーこれか?実は入れられてた部屋で滑って転んで打ちつけちゃってな。ゼフィランサスには何もされてないから安心しなさい。」

その言葉にウィンリアは安堵から大きな溜め息をした。

「ドルリアさん。無事で何よりです。さぁ、こんなところに長居は無用です。早く帰りましょう。」

灯摩が合間を見て声をかける。

「そうよ!灯摩ちゃんの言う通りだわ!早く行きましょう、お父さん!」

灯摩の言葉にウィンリアも頷き、ドルリアの手を引っ張って行こうとする。

しかし、ドルリアはその手を拒むように払い除けた。

「?」

思わぬ行動にウィンリアは、そして灯摩と利羅も目を丸くする。

「どうしたの、お父さん?早く逃げましょうよ!」

「………嫌だね。」

次の瞬間、優しかったドルリアの目つきが鋭くなった。

その眼と放たれた一言の圧力に、三人は少し脅威を感じた。

「………ドルリア…さん?」

灯摩が探るように言うと、ドルリアは突然勢いよくウィンリアから離れた。

「……ふっ…ふふははははは!!!あー可笑しい!最高だぜお前等!何で三人もいてわかんねぇ訳!?マジ受けるし!!ははははは!!」

そしてドルリアとは思えないような下品な言葉づかいになり、高笑いを始める。

ウィンリア達には何がなんだか分からない。

そんな三人を見て取り、ドルリアはまだくっくと笑いながら左目に付けていた眼帯を外した。

眼帯の中から現れたのは…。

赤眼。

「!!赤眼?!そんな!!お父さんは両目ともちゃんと青かったはずじゃない!!」

仰天してウィンリアは叫んだ。

そんなウィンリアを庇うように、灯摩は剣を構えて前に出る。

「…ドルリアさん…いや…貴様!一体何者だ!」

睨みを利かせ、問う。

ドルリアはくすくすと笑う。

「ふっ、何者だと?ドルリアに決まってんだろうが。」

右手で長い髪をかき上げる。

「この緑の長い髪!この服!この声!どれを取ったって俺様は紛れもなく『ドルリア』だ!」

馬鹿にするように笑いながら言う。

「くっ…。」

それを言われると灯摩は手が出せない。

もしかしたら本当に彼がドルリアかもしれないからだ。

ただし今目の前にいる彼は、幼い頃から慕っていた『彼』とは全く違っている。

そんな灯摩に代わって、利羅が前に出た。

「……騙されんな…。こいつがウィンリアの親父な訳ないだろ?……てめぇも悪ふざけはそこまでにしたらどうだ!?あ?!」

そして叫びながら、利羅はドルリアに暗器を一投した。

「!!利羅?!」

彼の行動に驚き、ウィンリアは顔を青くして叫ぶ。

利羅の投げたナイフは一直線にドルリアに向かって飛んだ。

「ふんっ!」

次の瞬間、ドルリアはそのナイフを素手で受け止めた。

ナイフはざっくりとドルリアの手のひらに突き刺さった。

「!!」

しかし、彼の手の平からは血が一滴も流れない。

その代わりに、一枚の花びらが傷口から零れ地に落ちて消えた。

「?!花びら?…やっぱり…貴方はお父さんじゃない!」

それを見てウィンリアは叫んだ。

灯摩も彼がドルリアではないという確実な証拠を目前で見て、確信をもった。

ドルリアは手からナイフを抜き、投げ捨てる。

その瞬間にはすでに手の傷は残っていなかった。

「あーあ。ったくこれだからガキってのは嫌いなんだよなぁ…。わかった。俺が誰なのか教えてやるから、そこの灯摩は剣降ろせ。」

やれやれと言いたげな表情で、ドルリアは灯摩の剣を指差す。

灯摩は少し迷ったが、スッと剣を鞘に戻した。

「それでよし。おら、ついてきな。この前は一方的に送り返しちまったから、今回はちゃんと話きかせてやるよ。」

そう言って、背中を向けて歩き出す。

その雰囲気に、騙している様子はなかった。

三人は顔を見合わせたが、誰からとなく歩き始める。

灯摩は歩きながら。彼の言った台詞に違和感を覚えていた。

『この前は一方的に送り返しちまったから』

それはまるで、彼が灯摩達を送り返した張本人のような言い方だったからだ。

つまり…彼の正体は…。

 





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